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魔物の大軍が侵入すると、私が彼らを手引きした《裏切りの大魔女》として貶められた。昔、魔法学院に居た時に、「数年以内に魔物が大量に攻めてくる」と周囲に警告したことを覚えていた者がいたらしい。また辺境地で、亜人と親しげにしていたのも不味かったようだ。
未曾有の危機に対して、私は二つの罪を突きつけられた。
預言書のことを秘密にしていた罪。
黙秘して平穏に暮らしていた罪。
後から私を悪者にする材料ばかり積み上げていく。悪役令嬢という不名誉な配役の次は《裏切りの大魔女》だというのだから笑ってしまう。
なら……どうすればよかったのよ。
じゃらじゃら、と金属音が私を現実に戻す。
逃げ出す気力も残っておらず、ふと顔を上げると──処刑台に不吉な二本の柱とその間に吊るされた刃が、鈍色に煌めく。
その傍には首を吊るされた者たちがいた。周囲の木々に吊るされた彼ら、彼女らは私と同じく罪を押し付けられた者たちなのだろうか?
それとも?
石畳に赤黒い血がこびりついていて、少し前に誰かが命を落としたことが容易に分かった。
ぬるりとした足元の感触。
ごとりと転がってきた丸い物体は、見慣れた──あの人、ヴィンセントの顔だった。
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