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第2部 第27話 譲れないもの(ルークの視点4)
初めての実技講習でのトラブル。
魔物討伐後、レオンハルトを追って教皇聖下と向かった庭園で、アイシャはレオンハルトの為に女教皇を捨てて、大聖女を選んだ。
自分のためではなく、レオンハルトのためという、ただその一点のことで酷く嫉妬した。
四年という月日を埋めるように惹かれ合う二人には、俺にはない何かがあるのだろう。悔しいがそれは認めざるを得ない。
俺がアイシャの隣に立っていたのに、こうもあっさりとあの男は返り咲く。その隣が当たり前のように、自然に息をするようにアイシャの隣に佇む。
(やっぱりアイシャの中にはレオンハルトが……。身を引く? ……無理だな。四年前ならいざ知らず、もう手遅れだ。手放せるはずなんてない)
どす黒い感情が沈殿していく。
醜くて、女々しくて、みっともない。無様で、滑稽に映ったとしても、アイシャを手放す気などない。それぐらい俺の歩く道にアイシャが居るのが当たり前になっていた。あいつのいない人生なんて白黒の世界と同じだ。
(アイシャの傍ためにも、出来るだけ情報を集める必要がある)
今回の事件についてもっとも問題視されたのは魔物が出現する指輪、いや宝石の存在だ。幸いにもセルマ=リオン令嬢が無傷に近い状態で確保できたおかげ詳しい事情を聞くことが出来るだろう。
(恐らくこれを作成した人物は、利用者が真っ先に魔物に襲われるように仕組んでいたはずだ。暴走と同時に、利用者を排除して足取りを絶つため。今回のケースは魔物に取り込まれた後でも、アイシャの防御魔法の強度があってこその成しえた神業ともいえる)
報告を終えた頃には、日が沈み周囲は薄暗い。
他の生徒たちの殆どは寮に戻っており、すれ違うのは学院内の警備兵ぐらいだ。
本当はずっとアイシャの傍にいたかった。だが、状況を整理して対処すべきことも多く、各所への連絡なども行わなければならない。
情報は鮮度と正確さが命だ。
今もアイシャは魔力切れもあって、魔法学院内の病棟で寝ている。新しくアイシャが使った魔法の効果の影響と、未だレオンハルトの傷を癒し続けているという。そのためレオンハルトはアイシャの傍に今もいる。
(なぜレオンハルトを傍に置く魔法を使った? 一気に治癒する魔法だってあるはずだ。それともそれが──アイシャの答えなのか?)
苛立ちと嫉妬が入り混じる。
一緒に今まで旅をしてきた時間、アイシャと過ごしてきた日常。
それらが走馬灯のように蘇り、口元を歪めた。やはり自分は根っからの商人なのだろう。こんな時ですら俺はアイシャが自分を選ぶかどうか、計算をしているのだから。
もしアイシャがレオンハルトを選んだ場合、俺の損失はどれほどか。
中立国リーベが抱える負債または損失。
周囲の評価と商業組合、医療ギルドにおける信頼度。
今後の交渉などそんな損得勘定ばかりが脳裏に過る。なんて薄情な奴なのだろう。
(ああ、本当にこういう時、自分の性格が嫌になる)
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