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アイシャが安心できるように、手を強く握り返した。
起きていても、眠っていても戦い続けている。俺に何ができるだろう。
レオンハルトやナナシのような力はない。
それでもアイシャの傍に居続けることなら──。
「ルーク……そっちは、ダメ。私の──傍に」
(俺の呪いのことをアイシャは……未来で見て知っている? 俺に相談してこないのは何か意図があるから?)
「ルーク……」
切ない声音に思わず、自分に清浄魔法をかけた。
次に魔法学院の外套を脱ぎ、防具などは魔法鞄にしまい込んで、アイシャのベッドに横になる。スプリングマットレスがやや軋んだが、二人寝るのに広さ的にも問題ないだろう。
いつものようにアイシャの頭を膝に乗せて抱き寄せる。
アイシャの表情が和らぎ、アイシャ自身が俺に擦り寄ってくっ付く。その肌や温もりが伝わってきて愛おしさが募る。欠けていたパズルのピースが揃うような満足感で満たされていくのがわかった。
「大丈夫だ、アイシャ。俺はお前の傍にいる。お前が嫌だと言っても傍に居続けてやる」
「……ルーク」
一滴の涙が頬を伝う。それは安堵か、それとも悲痛の涙か。俺には分からなかった。もし願うのなら、幸福であってほしい。
「おやすみ、アイシャ」
「ちょっと待て」
声のボリュームはだいぶ絞られたものの怒気の含んだ声が耳朶に響く。良い雰囲気をぶち壊す男に殺意が芽生えた。
レオンハルトは躊躇いなくカーテンを開けた。
「なに当然のようにアイシャと添い寝しているんですか」
「俺とアイシャは恋人同士なのだから、添い寝ぐらい普通にする。というか少なくとも三年以上は添い寝しているが」
「なっ……」
もっともアイシャが十八歳になるまで結婚は出来ない上に、《白の誓い》であることが絶対条件なので、キス以上手を出すことは出来ない。というか手を出そうとしたら、ナナシの配下に殺されそうになる。手裏剣やクナイが飛んでくるのだから、あれは心臓に悪い。
今もアイシャの天井裏に控えているので迂闊なことをすれば俺同様、レオンハルトも半殺しぐらいにはされるだろう。
(今日は散々嫉妬させられたので、意趣返しぐらいさせてもらう)
「くっ。……私は一度だってアイシャとの同衾を許されなかったというのに」
意外だった。出会った時から距離が近かったが、添い寝ぐらいはなんだかんだ理由を付けてやっていそうなのに。
「一体どのような手を使って」
「そうか。恋愛が四年前とまったく変わってないことに、驚きを禁じ得ない」
「私の愛はアイシャに捧げていますからね」
「そういうことじゃない。捧げているならもっと慮れ。なんでこう魔人族の愛情は……」
ふと違和感を覚えた。少なくともレオンハルトという男は、俺の印象では強引にアイシャに迫り、他の男に対して常に牽制をかけていたはずだ。
この状況を見て看過できないだろう。暴力に訴えるかと思ったのだが──何も起こらない。
違和感が拭いきれず俺はレオンハルトへと視線を向けた。すると彼はこちらをジッと何かを探るような視線に疑念が生じる。
「なんだ?」
「貴方から魔物の瘴気が感じ取れたのですが、憑依か呪いを受けていますね」
「……!」
「やはり図星ですか」
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