第2部 第28話 自分の弱さ (ルークの視点5)

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第2部 第28話 自分の弱さ (ルークの視点5)

 俺の微妙な表情の変化にレオンハルトは核心を突いてきた。この男にこの手のごまかしは効かない。何よりアイシャの身に危険が及ぶのならば、一切の躊躇いもなく斬り捨てるだろう。ナナシと同じで、そういう冷徹さを持っているからこそ嘘は得策ではない。 「……なぜ、分かった?(まだアイシャにも伝えていないのに……)」 「四年前、私は魔神王の器になりかけたことがありましてね。そのせいか魔物の瘴気には敏感なのですよ。……それと恐らくアイシャは気付いているでしょう。彼女の予知夢を侮らないことです」 「……!(ああ、だから先ほど魘されていたのは……)」  むしろなぜ気付かなかったのか不思議なほど、ヒントはそこら中にあった。まるで答えにたどり着けないように意図的に気付かないふりをしているかのようだった。 さも当然というようにアイシャの心を読み取ってレオンハルトは答えた。一番に近くにいたのは俺だったのに、この男はあっさりとそれを追い抜いていくのだ。  劣等感が膨れ上がっていく。 (これも呪いによる?) 「まあ、魔神王の狙いが聖女なのだとしたら私、次にルーク、貴方を狙うのは妥当でしょうね」 「そうか。……これはアラクネの呪いだ」 「アラクネ……。ああ、あの女王蜘蛛の呪いですか。しかし何故アイシャに相談しないのですか? 彼女の専門分野では?」 「……明日わかる」  多少、かいつまんで話はしたが、百聞は一見に如かず。  見てもらった方が早い。そしてそれこそが俺とアイシャにできた僅かな亀裂だ。この呪い以降、お互いに話せないことが増えた。それがどれだけアイシャの精神をすり削っているのか計り知れない。  それでなくとも一緒に眠ることが減ってから、アイシャの顔色が悪くなったのは事実だ。悪夢にうなされていたとしても、傍に居ることしかできない。  俺のできることはさほど多くないのが悔しい。 「それにしても人間の四年というのは凄まじい()()を遂げるものですね」 「なんだ、急に」  百年以上生きている魔人族からすれば、確かに僅かな月日と捉えるだろう。だがこの四年を『成長』ではなく『変化』と言ったことが妙に引っかかった。 「……なんで変化なんだ?」 「ええ。なんというか凄みのようなものが、全くなくなったというべきでしょうか」 「随分な貶しようだな」 「当然でしょう。護衛の部下を斬り捨てさせて、アイシャの治癒魔法のレベルを図ろうとするなんて十二歳の子供が思いつくものでも、まして実際に命令できるものではないのだから」 「……!」
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