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第2部 第29話 利害の一致(ルークの視点6)
ふと横で眠っているアイシャに視線を落とす。
無防備に寝入っている彼女を見て湧き上がってくる感情は、苛立ちや殺意ではなく愛しさだ。彼女の存在が今の俺を作り上げたと言っても過言ではない。
後悔?
アイシャと出会わずに生きてきた方が後悔する。
弱くなったのならそれでもいい。それを受け入れることが今の俺にはできる。
弱いから強くなろうとする。たとえ天才染みた化物がいようとも、関係ない。足りないなら補う努力をすればいい。それぐらいでアイシャの隣に立っていられるのなら何の問題にもならない。
「ああ、そうだな。俺は四年前よりもずっと弱くなった。弱くて、凡庸で、特別ではない、ただの人間だ。特別でもないけれど、それでいい。世界にとって特別よりも、アイシャにとっての特別の方が何十倍も意味がある」
「なるほど。精神的なタフさは、四年前とは比べ物にならないほど強くなったのですね。てっきり自分の弱さに打ちのめされるかと思いましたよ」
(アイシャの傍に居たら、自分の弱さを嘆いている暇なんてなかった)
意地の悪い奴だが、俺もレオンハルトへの認識を改める。
この男はただの戦闘狂でも蛮族でもない。アイシャへのアプローチはやや強引な部分もあるが、彼女が嫌がることは絶対にしない。当たり前でもあるが、それなりに常識と人間社会で生き抜く術と人脈を持ち、地位もある。確実にアイシャの隣に立てるように準備をしてきた証拠だ。
「俺も認識を改めよう。四年前と同様アイシャ以外はどうでもいいかと思っていたが、少しは人間社会に出て常識を身につけたようで何よりだ」
「まあ、アイシャあきですし、彼女が認めた人物ならどこか秀でたものがあると思っているだけです」
この男は意外とアイシャ以外の人間をよく見ている。思えばレオンハルトとこんな風に会話する機会などほとんどなかった。
いや話が通じるとは思わなかったし、四年前は損得だけで益になることはないと思っていた。戦士としては一流でもそれ以外は論外。それが四年前のレオンハルトという人物の評価だった。
「先に宣言しておきますが、私はアイシャの事を諦める気は全くありません」
「そうだろうよ。そんなのは見ていて分かっている」
宣戦布告は入学時にされたが、あの時と今では状況が違う。
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