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「しかしアイシャの剣と盾となった今、悔しいことにアイシャの一番は私ではなく、貴方なのだということが分かってしまう」
「は?」
「私とアイシャは運命の相手ではありますが、それは魔人王と相対するために得た役割を基準としています。もちろん私はそれを抜いてもアイシャを愛していますが!」
(なにを……それじゃあ、アイシャはずっと俺を……)
レオンハルトではなく俺を選んでくれていた?
隣に居たいと願っていたように、アイシャも俺の隣にいることを望んでくれていた?
損得勘定、分析と鑑定眼による思考パターンや考えが読み取れるのに、アイシャのことになるとポンコツになることが多い。
読み間違える、あるいは想定外のことを軽々としてしまうアイシャを推し量るのは、難しいのだ。
「だからいざという時はアイシャと私を頼れば良いのです。アラクネは一人で勝てるような生半可な相手ではないでしょうから」
「そうだな」
「呪いの件は私のほうでも調べておきましょう。軍でもなにか掴んでいるでしょうから」
「……そうだな」
俺一人でアイシャを支え切れる実績と武力があればよかった。そう出来るだけの立場であればどれだけよかっただろう。十六で出来る事なんて大人に比べれば些細なことばかりだ。現実はそう甘くない。
中立国リーベの宰相の息子ということで、年々俺への情報は制限されている。いくら恋人兼婚約者の一人になろうと、他国の人間である以上、エルドラド帝国の問題などに深い入りすることは出来ない。それが歯がゆくて、アイシャとの距離ができた原因でもあった。
四年前もそうだったが、何でも話せない。特にアイシャの問題を解決したいと思っても大半がエルドラド帝国の国家機密に関連する事だ。それを俺が解消できる方法はない。
歯がゆくて、悔しい。
「ギリギリアウトですが、まあ貴方ならいいでしょう」
「は?」
主語が抜けているため、何を意味しているのかレオンハルトの真意を見抜こうと表情の機微を窺う。
「それは……どういう意味だ。というかギリギリでアウトなのかよ」
「アイシャの隣にいることが、ですよ。私を退いてアイシャの隣に佇むのですから、並々ならぬ覚悟がないと困りますからね。私はアイシャの前で常に剣を振るい、盾となるのですから隣にいては敵を屠れません」
(相変わらず魔人族の理屈が意味不明すぎる。とりあえず? アイシャを溺愛しているのだけは変わっていないのを聞けて良かった……よかったのか?)
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