第2部 第30話 閑話休題(レオンハルトの視点)

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 四年前、教皇聖下救出の際にアイシャとルークは出会った。確かにあの時の少年は心がない人形のような面白味もなく、どこまでも冷徹になれる子供だと思いだからこそアイシャを敵にした時、一番恐ろしい相手だとも気づいていた。 「アイシャとの出会いは衝撃だった。損得無しで動ける人間が本当にいたことに。対価すら抜きに見知らぬ傭兵を助けたこと、そして彼らを斬ったことを自分の事のように怒ったこと。俺の凍えて閉ざした世界に衝撃を与えた。何より、チェスで負けるなんて生まれて初めてだった」 (彼も私と同じように真っ向から挑み、破れ──アイシャによって救われたのでしょうね。私がそうだったように) 「アイシャと一緒に居るとことで俺は感情を知った、お人好しはいつだって不利益を承知で突っ走る。だからそういう事が出来る奴が泣かないように支えたい、それが俺の原点。……で、アイシャのどこが好きだったかだが」 (やっと本題。さてどういった理由でしょうか)  とりあえず自分語りがさほど長くなくてホッとしているが、アイシャの好きなところを理論的かつ淡々と言い出すのだろうと身構えたのだが──。 「可愛い、以上」 「は」 「どんな言葉を並べようとも最終的に出る言葉は可愛い、愛らしいだ」 「唐突に語彙力が死にましたね」 「じゃあ、お前はどうなんだ?」  どうやら本気で一言に集約したようだ。先ほどの自分語りに比べて三文字とは。アイシャへの想いはその程度なのだろうか。私の本気を見せる時だ。 「アイシャの存在が可愛らしいのはもちろん、異論はありません。戦場で凛として挑む姿に惚れました。かといってスイーツを食べて笑顔を浮かべる普段も愛らしい。あの小動物のような食べ方、庇護欲を掻き立てられます。抱き心地は最高で、肌はすべすべ、どこもかしこも柔らかくて、胸もあと数年行けば──」 「脚」 「は?」 「アイシャの脚線美(きゃくせんび)は胸よりも魅力的だ」 「フフフッ、何を言い出すかと思えば。足も魅力的なのは認めますが、胸も素晴らしいです」 「確かに抱き心地はいいが、一番は脚だ」  いつの間にかアイシャが如何に素晴らしいかを語明かす流れだったが、途中でアイシャが寝返りを打って置きそうになったので、話は中断して就寝する運びとなった。  というかナナシの殺気が感じ取れたからというのが大きい。ここでこれ以上騒げば一戦交えることになりかねない。すごすごと自分のベッドで寝ることにした。 (ああ、それにしても手が届く距離に居るというのに抱きしめられないのは歯がゆい。この姿ではアイシャと同衾するのは難しいのなら獣や、本来の形に戻れば……?)
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