第1話 死に戻りの少女

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第1話 死に戻りの少女

(え? 夢……いやいや。落ち着け私……!)  混乱しつつも、覚えている事から一つずつ確認していく。  私の名前は、アイシャ=キャベンディッシュ。エルドラド帝国の生まれ。  エルドラド帝国とは、ルメン大陸の三分の一を領土とする帝国国家だ。皇帝と教皇が存在し、皇帝(太陽)は政治、貴族()は行政、教皇()は裁判をそれぞれに担っている。  私は貴族キャベンディッシュ公爵家の長女として、大切に育てられた。母は皇帝の妹にあたり、魔法学院卒業まで、何不自由なく暮らす。プライドが高く、高飛車(たかびしゃ)傲慢(ごうまん)な悪女──というのが世間の印象だろう。  しかしその人物をあげるのならば、私の義理の妹がまさにそうだ。  私の母は六歳の時に病死し、同じ年に父は妾だった女性とその娘をキャベンディッシュ家に迎えたのだ。  なにより驚いたのは、私と同い年の妹がいたということ。愛情を注がれて育った義妹リリーは、我儘言い放題だった。全てが自分の思いのまま。姉である私が持っていた玩具も、服も、母が残した宝石や財産まで、全て取り上げられた。  義妹は自分こそが、世界の中心だと信じていた。だからこそ、国で一人しかなれない聖女に私がなった時、妹はわんわんと泣き、駄々をこねた。なんとも幼稚(ようち)な思考回路であったが、リリーと初めて会った時から、最後まで中身は変わっていなかった。それはもう残念だと思うほどに。  現皇帝ルイス=シグルズ・ガルシア──伯父は、母が亡くなった時に私を引き取ろうとしたそうだ。しかし強欲な父は、皇族である私に利用価値があると思ったのか、第一皇子との婚約を持ちかけた。 「少しは家のために役に立て」そう父に言われたとき、胸が押し潰されそうな気持ちでいっぱいになったのを覚えている。  どうしてあのような男と母は結婚したのか。母の葬儀に顔を出すだけで、(いた)むことすらしなかった。それどころか父は母が死んでも喪に服すこともせず、妻を迎えたのだ。周囲の目から見ても非常識な行為に、嫌気がさした使用人たちは家を出て行った。  公爵家として貴族の見本となるべき存在、貴族の中の貴族という立ち振る舞いをしていたキャベンディッシュ家だったが、母の死後それは大きく変わる。その原因は父が継母と義理の妹を溺愛し、望みの全てを叶えたためだ。日に日に屋敷から芸術品は消え、代わりに宝石や派手なドレスなどが増えていった。  住み慣れた屋敷が、どんどん知らない家へと変わっていく。  母との思い出まで私から奪い取るかのように、思い入れのある肖像画も、気に入っていた女神像の彫刻も全て消えていった。
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