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前には、男子がいた。
……多分、私と同じくらいの。
顔は俯いていてよく見えない。
その右手は……
「……!」
素手で、刃先を掴んでいた。
手から紅色の血液が垂れ、静かに落ちていく。
それを見て、現実に引き戻された。
そうだ、これは夢じゃない。
私は、死んでない!
一瞬遅れて、彼に声を掛ける。
「あの!怪我してます、直ぐに応急処置……いや、その手を離してください!」
彼は私を見て、口を開いた。
「……嫌だ」
どこか懐かしさを感じる声に、そして顔に違和感を覚えた。けれど、まず最優先は彼の手の処置だ。
「血が出てます!早く、手当しないと……!」
しかし、彼は平然とした顔で傷を見る。
「別に、構わない。これくらいどうとでもなる。痛みはないし、傷も比較的浅い。
というか、見捨てたらお前死ぬだろ」
お前と呼ばれて、また懐かしい気がした。
でも、こんな子とは会ったこと、ない。
……そう、会ったことない、よね?
「美咲。お前を見捨てるはずがない」
彼は、そう言った。
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