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三原さんがこちらに近付いてきた。
「……何、勝手に二人で話してんの?折角の劇を止められた側にもなってほしいんですけどー」
けらけらと嘲笑う三原さんの声。
その声を聞いて、また身体が震えた。
あぁ、まただ。私はやっぱり抗えない。
死ねなかったから、また繰り返すしかない。
そう、死ねなかったから。
「また、始まるんだね」
あなたが余計な正義を振り翳すから、また地獄が始まるの。あなたは、これに耐えられる?
そんな訳、ないよね。…知ってる。
だったら、助けてくれなくても……
「……」
彼が後ろを振り向き、三原さんをじっと見据えた。
「何、あんた。何処の……って、中々良い顔してるじゃん。んー、あなただったら私、赦してあげようかな」
彼を見て、三原さんは彼を口説き始めた。今度はちゃんと、微笑みながら。
三原さんは顔の比較的良い男子を見ると、すぐ自分の彼氏にしたがる。
そして、少し付き合って、飽きたら捨てる。
彼女にとって彼氏は、玩具みたいなもの。
自分の言うことを聞く、都合の良い存在。
そういうもの。
そして、彼のもとに近付く。
「ほら、私、そこの誰かさんと違って裕福なお嬢ですから……。もし、私の彼氏になれば見なかったことにするから、ね?」
彼はまた無表情で……今度は何処か、怒りが篭ったような目で彼女を見つめた。
それを見て、三原さんは一瞬怯えたような顔になったが、また笑顔になった。
彼女の笑顔はまるで天使のよう。
だから、大体の男子はすぐ恋に落ちる。
それなのに何故、あなたは何も思わないの……?
「ほら、何故助けたのかはわからないけど……。きっと、気の迷いでしょう?だったら、それ私が赦すから、ね?だからほら、こっちに……」
「断る」
彼女の差し出した手を勢い良く払い、彼女の受け入れを断る彼……さっきよりも、怒りが増してきているように見える。何故?
「え、どうして?知らないかもしれないけど、私は〇〇株式会社の社長夫妻のひとり娘よ?あなた、歯向かったらどうなるか……」
「構うもんか。俺は転校する予定だった学校を視察してる途中で、まだ朝なのに騒がしいここを見て愕然としたんだ。しかも、泣いてる、自殺しかけてる女子もいてさ。止めるしかないだろ。そしたら嘲笑してるあんたがいてさ。そんな奴と、誰が付き合うってんだよ、そんな薄汚ぇネズミみたいな奴とさ」
ペラペラと話し出す彼。
それを聞いて、三原さんの顔はどんどん赤くなっていく。
「……へぇ、そうなのね。あなた、私を馬鹿にするのね」
顔が赤くなったまま、三原さんは話し出す。
「私にそんな侮辱行為なんて……許さない。
ねぇ、あなたの親御さんはどちらで働いていらっしゃるの?パパに言って、すぐ制裁してもらうわ!!」
きゃははと笑う三原さん。
三原さんの周りにいた子たちは、空気が悪くなったことを察して即座に離れる。巻き込まれたくない、そう思っているんだろう。
「ねぇ、判る?ねぇ!あんたも美咲の仲間入りよ?良かったわねぇ、美咲!もう一人じゃなくて済むのよ!ねぇねぇ!!!」
止めて、彼には手を出さないで
そう言おうとした矢先、
暫し黙っていた彼が口を開いた。
「俺の両親が働いているのは✕✕株式会社だ」
「……え?」
彼女も、私も、他の子も、思考が止まる。
待って、✕✕株式会社って超一流会社で……海外にも進出してる、有名な企業だったはず。
今度は顔が青くなってきている三原さんに構わず、彼は話し続けた。
「そこで社長を勤めているのが俺の父で、母はその専属秘書をしている。それであんた、何するって?」
ガタガタと震えながら、三原さんは声を絞り出すように話す。
「……嘘。嘘に……決まってるわ。
そんな、そんなの……」
顔が真っ青になり、震えている三原さん。
彼は続ける。
「嘘?はは、そんならあんたのお得意の媚で、学校側に個人情報聞いてみなよ。俺はその息子だ。やろうと思えば、あんたなんて直ぐ潰せる。侮辱してんのはそっちだ。わかったか、いや、わかんないよな。ごめんな、無理させて。あんたみたいなクズにわかる訳ない、よな!」
攻守交代。もはや怯えつつある三原さんに、彼は言う。
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