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お前は、初めて会った時と比べて傷だらけだった。特に心が深く傷付いていたな。
お前は隠そうとしてたみたいだったけど、暗闇で泣いていたのは初めからわかってた。
俺は蛍だからな、ずっと夜で過ごしてきたんだ。解らない訳が無いだろう?
……それに、三原とは元々親友だったんだって?
お前が昼間学校に行っていた間に調べた。
本当に、周りから見ても本当に仲が良かったらしいな。三原が壊すまでは。
……本当はお前を調べる目的で近付いたのに。
俺、お前と話すのが楽しくなっててさ。
離れたく、なかった。
悲しい思いはさせたくなかった。
けど、時間が来たんだ。
人間に化けるのはあれ以上無理だった。
アイツが力を使うのは久しぶりだったから、誰かの願いを叶える力っていうのが弱まってた。
でも本当のところは、俺の願いじゃなかったからだろうな。
ごめん。勝手に居なくなって。
もう、あれが人間の儘でいられる最後だったんだ。
俺は、何もせず、ただお前が悲しんでいる姿を見るのは嫌だった。このまま消えてしまうのを見ているだけなのは嫌だった。
だからこれは俺のエゴだ。だけど、願った。
アイツにお願いをしたんだ。
『人間になって、彼女を助けたい』って。
俺も迷った。一番迷ったのは、アイツを独りにさせてしまうことだった。
人間になったら、アイツが見えなくなるんだ。本当は、ここに居るはずなのに、見えない。それが嫌だった。
でも、アイツは微笑ってこう言った。
『僕のことは良いから。人間になっておいで。君が幸せになることが、僕の本当の願いだから』
……そして、気が付くと俺は人間になっていた。
赤子ではなく、程々に成長した身体。徐々に、人間としての記憶が蘇ってきた。経験してもないはずなのに、淡く、当たり前かのようなものが頭に染み付いていた。
だから、元々こうだったんじゃないか、今まで蛍だったのは夢だったんじゃないかと思った。人間の身体でいることが、あまりにも違和感がなかったから。日常生活もできるし、人間と普通の会話だってできる。
これは転生、みたいなものなのだろうか。
でも、自分が蛍だった時のことは、鮮明に思い出すことができた。
しかも、俺に親がいたんだ。裕福なのにとても優しい御夫婦。俺の名前も、お前に会った時適当に言った、夏川蛍斗だった。
神は、確かに万能かもしれないと思った。
そして、俺は自分が転校することになっていることを知った。親に手渡されたクラスの名簿から、そこはお前が通っている中学校ということも知った。
だから、お前を今度こそ助けたいと思って。
それで今に至る。
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