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「そう、だったんだ……」
初めて聞く彼の生い立ち。
普通は嘘だ、冗談だと言って彼を笑うだろう。けど、私にはそうはできなかった。本当にしか思えなかった。彼の眼差しはいつも通り真剣なものだったから。
「だから、まぁ……もう俺の願いは果たされた。だから、お前は無理して俺と関わることはないんだ。もうすぐ蛍に、戻るだろうな」
急に、大勢の蛍が近くににやってきたと思うと、彼の周りを飛び始めた。
蛍が、彼の仲間が、彼を取り囲む。
「もう、時間のようだね。逝かなきゃな。……人間でいられるのはこれでもう、十分だ」
彼は苦笑した。
私は笑えない。そんなのできない。
願いが果たされたからって?
そんなの、そんなの。
「やめて、いかないで」
「願いは叶った。もう、十分だよ」
「もう、独りは嫌だよ……」
久しぶりだったのに。
もうずっと前から、ずっと待ってたんだよ。
それなのに、それなのに……。
涙が溢れる。収まらない。
収まるはずがない。
「お前はこれから、友人が出来るはずだ。だから、大丈夫。大丈夫だ」
「消えないで……逝かないで」
私は、ずっと……。
この想いを打ち明けられない、まま?
友達じゃない、私は、ずっと願っていた。
貴方が来て、ずっと思っていた。想っていた。
「俺は、良いから。これが自然の摂理。少しでもお前といられて良かったよ。ありがとう」
「こんなのって……ない」
ねぇ。酷いよ、神様。
やっぱり私は、あなたを恨むしかないの?
「まだ言いたいことあった、のに」
蛍斗くんに届かないくらいの声で、呟く。
「好き」
もう、どんなことをしても結局無駄だとわかっていた。行ってしまうんだ。向こうに。
また、向こうに。……また。
「……ずっと見守っているよ」
彼は寂しそうに、微笑んだ。
これが、きっと最期。
でも、蛍の光に包まれようとしたとき、私には聞こえた。どこかで聞いたような、優しい声。
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