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「おいしそうですね!」
相手の男性がニコニコと話しかけてくる。美紅も笑みを浮かべて「そうですね」と返したものの、窮屈な振袖のせいで食欲はあまりない。今すぐに帰りたい気分だ。
(まだ恋を知らないのに、目の前の相手と家のために結婚しなきゃいけないなんて、一体いつの時代の話なの?)
時代が変われば価値観も変わる。令和になった今、結婚に対する考え方はガラリと変わった。以前は、女は結婚して子どもを産むのが当たり前だったが、今では生涯未婚の女性は珍しくない世の中に変わりつつある。だが、それを良しとしないのが美紅の両親たちだ。
「美紅、お前はこの家に相応わしい男と結婚して、家を強くしていくんだよ」
そう幼い頃から言われ、学校は異性が一人もいない女子校へ通わされた。異性と関わる機会があるとすれば、父が主催するパーティーか、父の取引先の社長に招待されたパーティーなどである。だが、美紅はお金持ちのご子息を誰も好きになれなかった。
(みんな、つまらない自慢話ばっかり……。将来はこんなに大きな親の会社を継ぐんだとか、高級車を何台持っているとか、マンションを持っているとか、そんなことしか話せないのかしら)
目の前にいる男性もその一人である。羽富というかなり古くから経済界のトップに立つ財閥のご令嬢に気に入られたいのか、どこか必死な様子で話しかけてくる。
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