午前零時のジュリエット

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今日の打ち合わせを終えた後、先ほどまで式場のスタッフに対し笑顔を浮かべていた婚約者はため息を吐き、スーツのネクタイをだらしなく緩める。 「次、何を決めるんだっけ?」 「私のドレスです」 美紅がそう答えると、婚約者は「ダルッ」とすぐに答える。女性のウェディングドレス選びは時間がかかるため、一緒に行きたがらない男性もいる。だが、ここまではっきり嫌そうな顔をされてしまうと、美紅の胸に痛みが走った。 「ドレス選び、一人で行ってきてね。時間かかるのにずっと待ってるの嫌だし」 「……わかりました」 婚約者は美紅の家しか見ていない。わかりきっていることだ。だからこそ、美紅は思ってしまう。 (やっぱり、家のために好きでもない私と結婚をするのね。親の前だけ仲のいいアピールをしていて、虚し過ぎる……) 家に帰った後、美紅はすぐに婚約者からプレゼントされたブランド物の服を脱ぎ捨てた。婚約指輪も外す。そして、クローゼットから赤いロング丈のワンピースに着替え、こっそり家を抜け出す。 (今なら、あの主人公の気持ちがわかるかも……) ある場所を目指し、美紅は足を早めた。 美紅がやって来たのは、一軒のレトロな雰囲気のあるバーだった。幼い頃、深夜ドラマをこっそり見た時、主人公が嫌なことがありバーでカクテルを飲むシーンに密かに憧れていたのだ。ただ、大人になっても自由な時間はほとんどなく、今日初めてバーの中に足を踏み入れたのだが……。 夜中に近い時間帯だというのに、バーの中には数人の人がいた。それぞれ一人で店内に流れるジャズに耳を傾けたり、友達らしき人と話をしながら、各々カクテルを楽しんでいる。 美紅はカウンター席に案内された。バーテンダーが目の前におり、「ご希望はありますか?」と訊ねられる。 「あっ、えっと……ティフィンミルクをお願いします」 バーに憧れを美紅は抱いていたものの、実はカクテルの名前やどのようなお酒が使われているかなどは全く知らない。ティフィンミルクと言ったのは、見ていたドラマで主人公が頼んでいたカクテルを思い出した、ただそれだけである。 「お待たせしました、ティフィンミルクです」 美紅の目の前にカクテルが置かれる。ドキドキと心臓を高鳴らせながら、美紅はカクテルグラスを持ち、カクテルを一口飲む。まるでミルクティーのような味が口の中に広がり、美紅は思わず呟いた。 「おいしい……」
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