午前零時のジュリエット

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カコン、と鹿おどしが音を立てる。立派な日本庭園が見えるこの料亭の一室では、とある財閥のご令嬢とご子息のお見合いが行われていた。 大学を卒業したばかりの羽富美紅は、成人式の時以来の窮屈な赤い振袖を着せられ、料亭の一室で両親に挟まれて座っている。美紅の前には、ブランド物のスーツを着た美紅より五つ年上の男性が、同じように両親に挟まれて座っていた。 「五条家のご子息・新さんとお見合いができるなんて、大変光栄です。ぜひ、いい方向にお話が進めばいいと思っています」 美紅の父が笑みを浮かべながら言うと、「いえいえ、そんな」と美紅の目の前で相手の両親が首を横に振りつつ、笑みを浮かべた。 「こちらこそ、羽富家のお嬢様とお会いできて光栄です。こちらも二人が手を取り合ってくれればと思っています」 ニコニコとする互いの両親に対し、美紅はため息を吐きたくなってしまう。「いい方向に話が進めば」「手を取り合ってくれれば」と言っているものの、このお見合いというのは建前で、本当は両親たちは目の前にいる男性と結婚させるつもりなのは丸わかりだ。 「ーーー失礼します、お料理をお持ち致しました」 互いの両親だけがニコニコと話す中、料亭の着物を着た従業員が襖を開け、料理を運んでくる。どれも芸術作品のように美しい懐石料理だ。
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