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熱でたりしてねえか?
あいつにいいにくいなら、迎えに行ってやろうか?
ぶっきらぼうなそのメッセージに、一瞬で、簡単に葉の涙腺は崩壊した。ほろり。と、零れた葉の本音。”迎えに来てくれる?”への、遅い答えがそこにあった。
今日はきっと、離れられない大切な用事があるはずなのに。それでも、葉のことを考えていてくれたのだ。その言葉だけで、全部許せるくらいに、貴志狼が好きなのだと、実感できた。
それから、やっぱり、貴志狼の隣を誰にも譲りたくないと思った。
『…ごめんなさい。僕。帰ります』
だから、葉は深く晴興に頭を下げた。
晴興には本当に申し訳ないと思う。ここまでしてくれて、あそこまで言ってくれた彼を、ここに置き去りにしようとしている自分に罪悪感はもちろん、ある。けれど、もう、時間がない。貴志狼が完全に手が届かなくなる前に、せめて貴志狼の顔を見て、思いだけは伝えたかった。
『…そうですか』
まるで、全部分かっていたみたいに、晴興は穏やかな表情で呟いて、手を離した。
不誠実なことを考えてしまった葉を詰ることも、告白に対する答えがこんなものであったことに怒ることもない。ただ、静かに頷いてくれた。
『あの。丸山さん』
何と言って謝っていいのかわからずに、言葉が詰まる。
そもそも、謝ることが正しいのかすらわからない。
『うん。分かってます。分かってて、今日誘いました』
おそらくは、いろいろな葛藤を抱えていて、その上で、葉に好意を寄せてくれて、だからこそ、葉の気持ちにも気付いていて、それでもなお、優しくしてくれた。晴興のように強くなりたいと素直に思う。
『丸山さんは、完璧で。悪いところなんて何もなくて…。でも、僕は、欠けてるものばっかで…いや。そうじゃなくて。僕が…シロじゃないと…ダメで…』
晴興が気に入らないわけでない。自分はそんなことを言えるような人間じゃない。ただ、貴志狼が好きだから、貴志狼以外では代わりにはなれないから。
そう言いたかったけれど、伝わったかどうかわからない。声が詰まって、思ったことを口に出すことすらできなかった。
『知ってます。だから、泣かないで。大丈夫。あの番犬君は、あなたをなくすのを怖がっているだけだから。あなたがいなくならないとわかれば、素直になります』
ポケットからいつの間にか出したハンカチを葉に渡して、晴興は微笑んだ。そんなふうに笑ってくれる晴興が切なくて、また、涙が零れる。自分の涙で晴興のものが汚れてしまうのが嫌だったけれど、そんな気持ちを察したのか、その手が葉の手に重なって、頬を伝う涙を拭いてくれた。
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