11 好きなんだ

2/3
前へ
/66ページ
次へ
『ホント…に?』  けれど、あんまり長く一方通行だったから、そんな幸せが自分にやってくるなんて信じられなくて、葉は思わず聞き返してしまった。  嘘だ。  と、言われたら、多分泣きすぎて脱水症状で死ねると思う。 『本当だ。つか、今、嘘言うとこじゃねえだろ』  少し呆れ顔で、貴志狼は言った。嘘じゃないのは本当に嬉しかった。でも、言い方がまるで、バカにされたみたいで、葉はムッとしてしまう。 『だって…婚約するって、すごい美人と』  言ってしまってから、しまったと葉はすぐに後悔した。  せっかく思いを伝えることができたのに、お前は愛人な? とか、言われたらどうしよう。翔悟が言っていたとおり、貴志狼が身を置く世界では、跡目なら愛人の一人や二人や三人や四人や……は当たり前だ。本命はお嬢の方だと言われたら、それに耐えられる自信が、葉にはなかった。 『は? 誰が婚約するって?』  貴志狼の言葉に葉はばっ。と、彼の顔をみた。心底驚いたという顔だ。嘘をついているようには見えない。 『だって。今日、シロ。お見合いだって』  けれど、翔悟からLINEで送られてきた画像は割と鮮明だったし、バカでかい玄関には確かに見覚えがあった。貴志狼の姿は、さらに見間違えるはずもない。スーツも、今、葉が羽織らされているものと同じだ。  今日、少なくとも貴志狼のうちに着物美人が来ていたのは間違いない。その人を、貴志狼が出迎えていたのも間違いない。 『翔悟君から、聞いて。結婚すんの? って、聞いたら、跡目なんだから、結婚しても愛人作り放題とか言うし…。それに、今朝から何度かLINE。すごい綺麗な人映ってて…え?』  説明している間に一目見て分かるほど、貴志狼の眉間の皺が深くなっていった。どこからどう見ても明らかに不機嫌になっていっている。 『…シロ? 怒ってんの?』  またなにか怒らせてしまったのかと、不安になって、貴志狼の服の袖をぎゅ。と、握って顔を見上げると、その手と、顔を交互に見てから、貴志狼はまた、ため息をついた。 『別にお前に怒ってるんじゃねえ。んな、可愛い顔すんな』  する。と。貴志狼の指先が葉の頬を掠めるように撫でる。くすぐったくて首を竦めると、貴志狼は困ったような顔をして笑った。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

91人が本棚に入れています
本棚に追加