騎士の本分 3 寄り添い守るもの

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『そんなことで泣くなよ』  腕に掴まっていた細い身体を背中から抱き込むように腕の中に収める。 『あ』  途端に、葉の身体が強張る。風呂の熱気のせいなのか、恥ずかしがっているのか耳まで真っ赤だ。 『あの…シロ…はなし…』 『ダメだ』  ぎゅ。と、抱きしめる腕に力を籠める。もちろん、このまま最後まで突っ走る気などないが、振り回され過ぎて、少し意地悪をしたくなった。 『や。でも。その』  しどろもどろになって、葉が俯く。長い睫毛の先に溜まったしずくが、小さな音を立てて湯船に落ちた。 『何もしないって…』  華奢な身体を丸めてさらに小さくして、葉が言う。ちら、と、寄越した視線は咎めていると言うわけではなく、ただ恥ずかしそうに、貴志狼の顔のあたりを彷徨ってから、視線が合うとまた、顔を伏せてしまう。 『されたくねえのか?』  このままでは埒が明かないし、明かなければのぼせてしまう。だから、貴志狼はストレートに聞いてみた。嫌なら、もちろん何もする気はない。今なら、葉が本気で拒否してくれれば理性で自分を止められると貴志狼は思う。  けれど、葉が何と答えるかは分かっていてその質問をしたのだ。 『さ…れたくな…くないです』  そうだろうな。と、思う。とても、嫌です。の、顔ではない。 『でも、ぼく…こういうの…は…じめてで…』  そんなことは知ってる。  貴志狼は思う。  いられる限り四六時中側にいたし、そういうよからぬ(?)ことを考えそうな輩は全て排除してきた。葉が誰かを好きになったなら、まだしも、そうでないなら、近づけることすら、不快だったからだ。  今思えば、ただの嫉妬だったのだけれど、貴志狼にとっては、葉の貞操(?)を守ることは、番犬として、最も重要な任務だったのだ。 『シロは慣れてるかもだけど…その…僕は…うまくできるか…それに…その…』  葉の言葉は小さくなって最後には消えてしまった。 『慣れてねえとは…まあ、言わねえけど。お前は上手くなくてもいいんだよ。全部、俺が、教えてやる』  ぎゅ。と、腕の中に抱き込んで、耳元に囁くと、葉の身体が、また、びくり。と、緊張した。 『あの…わ…笑わないでよ?』  する。と、傷のある左足の太もも辺りを撫でる。風呂に入る前とは違って、暖かいし、強張りも随分と解けてきていた。 『何で笑うんだよ』
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