12 繋がったのは…

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12 繋がったのは…

 緑風堂の扉の前に立って、菫は躊躇っていた。さっきから、入ろうとして扉に手をかけては手を離し、振り向いて帰ろうとしては、また扉の前に立つ。を。繰り返している。  さっき、女性客が不審者でも見るような目で見ながら通り過ぎていった。いや、菫の今の状況は”のような”ではなく、間違いなく不審者だ。今日は平日で、鈴はいないから、客は少なくて、助かっているが、通報されても仕方ないレベルだ。  はあ。と、ため息を吐いて、菫はまた、ドアに背を向けた。そして、歩き出す。けれど、二三歩歩いてまた、立ち止まった。  数日前に見たあの鎖のことが、頭から離れない。  幾重にも巻き付いた、太く硬く重そうな鎖。普通の人に見えない鎖だから、重さはないのかもしれない。実際に鈴が川和貴志狼と、教えてくれた鎖のもう一方の人はまったく重さを感じてはいないようだった。しかし、葉の方はその鎖が原因であるかのように足を引きずっている。  それがどうしてなのかは分からないし、猫たちが言う(?)ように、菫が心配することではないのかもしれない。それでも、気になって仕方ない。  だから、こうして定例の自分へのご褒美の日でもないのに様子を見に来てしまった。  葉は大丈夫だろうかと心配になる。貴志狼との関係性は決して悪いようには見えなかった。むしろ、かなり良好だと思う。そう言えば、鈴が葉には好きな人がいると言っていたのを思い出す。その時は鎖に関してあまり深く考えていなかったから、その人が葉の好きな人かと聞いた。鈴の答えはYESだったから、少なくとも葉の方が貴志狼を嫌っていたり、避けているようなことはない。  だから、あの鎖が悪いものではないと信じたい。鎖で縛って、身体の自由を奪うような相手に好意を寄せたりはしないだろうから。  ただ、自分自身で無意識に使ってしまった”呪い”という言葉が忘れた頃に耳の奥に甦って、そのままにしておけなくなってしまった。  くるり。  と、また、緑風堂の方に振り返る。その瞬間に、からん。と、ドアベルの音がして、中から二人連れの女性客が出てきた。
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