12 繋がったのは…

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 促されるままに中に入ると、いつも通り、紅と緑が歓迎してくれる。可愛い接客に状況も忘れて、顔がほころぶのを止められない。  それ以上に、なんだか、少し、店の雰囲気が変わった気がした。どこが、と、聞かれても、はっきりとどこと答えることはできないのだが、何かが違う。  それも、もしかしたら、あの鎖のことが関係しているのだろうか。 『日替わり。何にする?』  葉がカウンターの向こうで柔らかく微笑む。この人はこんなふうに笑う人だっただろうか。元々、優しく笑う人だったけれど、やっぱり、何かが違う。  菫にはそう見えた。 『えと。ほうじ茶のクッキーサンドで。お茶はいつも通りお任せでお願いします』  上着を脱いでカウンターのいつもの席に座る。かしこまりました。と、答えた葉は背中を向けて、準備を始める。その背中に、音符が飛んでいるように見えた。  貴志狼は、カウンターの中の食器棚に背を預けて、そんな葉の姿を見ていた。気のせいではなく、目が優しい。目の上の傷を差し引いても、今なら鈴の代わりに看板息子(?)を、務められるレベルだ。そういえば、さっきのお姉さんたちも貴志狼のことは特に気にしていなかった。 『えと。なにか、いいこと、ありました?』  誰も何も言わない静かさに、耐えきれなくなって、けれど、ストレートに鎖のことを聞くことなんて、ヘタレの菫にできようはずもない。だから、そんな何気ない話を振ってみた。 『え?』  けれど、まるで核心をつかれたかのように葉は、ばっ。と。振り返った。その瞬間、ぐらり。と、身体が傾く。 『葉』  そうなることがわかっていました。と、でもいうように伸ばした貴志狼の腕が葉を抱きとめる。 『あ。ありがと』  葉の頬が一目で分かるほど赤い。でも、とてもうれしそうだ。と、菫は思う。  それで、はっ。と、した。
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