12 繋がったのは…

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『…あ。そか』  思わず、声に出してしまった。その、菫の言葉に、葉の視線が貴志狼から、菫に移る。 『え? や。その…ちがうから…そゆんじゃなくて』  それから、別に菫が何を言ったわけでもないのに、あたふたと言い訳を始める。その顔は耳まで真っ赤だ。 『別に違わねえし』  ぼそり。と、貴志狼が言うと、葉は信じられないものを見るみたいな顔で貴志狼を見てから、ぱくぱく。と、何かを言おうと口を動かした。でも、何も言わずに口を閉じて俯く。  きっと、否定したくもないのだろう。  と。菫は思う。  そういうことだにゃあ。  ごろごろ。と、喉を鳴らしているのはご機嫌な証だろう。紅は菫の膝の上で丸まっている。  きっと、貴志狼と葉の良好な関係は、さらに良好な別の形に変わったのだろう。それなら、すべての説明がつく気がした。  だから、大丈夫だって言ったにゃ。  本棚のいつもの場所で気持ちよさそうに目を閉じる紺の声。今日も彼女の毛並みは最高だ。  菫の心配など杞憂だった。彼女たちにはすべてわかっていたらしい。結果的に、言えなかっただけだけれど、彼女たちの助言に従ったのが正解だった。  ご心配おかけしましたにゃ。でも、御覧の通りですにゃ。  カウンター上の菫の横に陣取った緑に促されて、その綺麗な緑の瞳の先を見ると、そこには貴志狼と葉がいる。  その葉の左足の小指のあたりから伸びた糸。それは貴志狼の首を一巻きして、彼の左手の小指に繋がっていた。  もちろん、色は赤だ。  多分、二人がそれに気付くような出来事があったのだろう。それが、どんなことなのか、菫にはわからないけれど、構わない。それは、二人だけが知っていればいい。  お互いが、お互いを、呪いのような硬い鎖で繋ぐ必要なんてないんだってこと。あんな細い糸でも、絶対に切れたりしないってこと。 『あの。お幸せに』  ぺこり。と、頭を下げて、へにゃ。と、笑うと、葉は目に涙まで溜めて真っ赤になって、はい。と。貴志狼はドヤ顔で、おう。と、答える。  猫たちも、鈴も。きっと、最後にはこうなることを知っていたんだろう。だから、何も言わずに見守っていたのだ。 『ん??』  そこで、菫ははっとした。ずっと、心の中に引っかかっていたものに答えが出たのだ。けれど、それは、菫の中では大したことではないと判断されて、心の奥へまた沈んでいく。  その意味が分かるのはもう少し先の話。  今はただ、二人への祝福と、見た目に焦って二人の邪魔をしないでよかったと安堵。それから、同性同士でもお互いを思い合う二人へ、少し、いやかなりの羨望。いろいろな思いが一緒になって、日替わりスイーツは喉を通らないかな? と、菫は、思う。  が。  結局、葉のおごりで、日替わりは三種全部食べて、夕食を抜いた菫であった。
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