後日談 結局可愛いもん勝ち

1/10
前へ
/66ページ
次へ

後日談 結局可愛いもん勝ち

 川和家本宅の母屋は広い。元々、都会とは違って土地なんて捨てるほどある。しかも、まだ、戦後の高度経済成長前に二束三文で手に入れた土地だ。その後、市街地化計画で、驚くほど価値は変わったし、便利にもなったらしいのだが、平成生まれの貴志狼にはすでに歴史上の話としか思えない。  どこまで続いているんだという長く、高く、白い壁に囲まれた敷地には母屋のほかにいくつかの離れがあって、それぞれがごく普通の一戸建てほどの広さを備えている。しかも、高い庭木で仕切られているため、お互いを干渉することはない。もちろん、住み込みの庭師まで雇っている庭は常に最高の状態を保っていて、華美ではないが、趣味の良さに感心する客も多い。らしい。と、これも貴志狼にとってはどうでもいいことだった。  敷地の中心に位置している母屋は平屋の和風建築でもともとは貴志狼の家族が住んでいた。しかし、仕事?の都合上、父と母は現在は東京で暮らしているし、姉夫婦は敷地内で一番広い離れに住んでいる。貴志狼も離れに住んでいるから、この母屋に住んでいるのは祖父と妹だけだ。  両親や姉、貴志狼の部屋も母屋には存在しているが、使われてはいない。しかし、無駄に広いこの家は、それでも寂しいという印象はない。住み込みの使用人は長く勤めているものばかリで気が置けないし、貴志狼の祖父・壱狼の部下というか、お世話係?ボディガード?のような顔面凶器が入れ代わり立ち代わり出入りしているからだ。そのうえ、祖父・壱狼が翔悟のような下っ端の礼儀も知らないガキを呼びつけてはつかいっぱしりに使って、悪だくみばかりしているから、母屋はいつでも人が出入りする賑やかな家だった。  その母屋の最深部。見た目にはわかりづらいけれど、最も金のかかった部屋に貴志狼はいた。畳敷きの20帖ほどの部屋だ。床の間には、山水画の掛け軸(それなりに有名な画家の作らしいが興味ない)その前には花器に梅の花が生けられている。  それを背にして座る老人。文机の上には書きかけの何かが散乱している。また、何か悪だくみをしているんだろうか。もう、80は超えているが、矍鑠として生命力に満ちている。背が高いわけでも、体格がいいわけでもないが、眼光が鋭く存在感を放っている老人は、和服を着てつまらなそうに貴志狼を見ていた。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

91人が本棚に入れています
本棚に追加