後日談 結局可愛いもん勝ち

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「相変わらず、ガキのくせに鼻っ柱だけは強いな」  たぶん、貴志狼の強がりなど、お見通しだっただろう。けれど、ふ。と、表情を和ませて、壱狼は言った。 「こうでもしなけりゃ、お前いつまで経っても葉ちゃんの番犬すらまともにできんまんまだろうが」  壱狼は家族ぐるみで付き合っている葉のことを小さなころから”葉ちゃん”と呼んで、可愛がっている。貴志狼の姉や妹よりも可愛がっている節があるほどだ。葉の方も彼を”壱じいちゃん”と呼んで懐いていた。  しかも、葉はたまに緑風堂まで自ら足を運ぶ壱狼に悩みを相談したり、貴志狼には内緒で食事に出かけたりしていたらしい。壱狼から、貴志狼が怒るから内緒にしておいてほしいと頼まれて、律儀にも葉はそのことを内緒にしていた。  そもそも、壱狼が、というよりも、組のものが葉に近付くことを貴志狼はよくは思っていない。葉のようなタイプには貴志狼の身を置いている世界は相応しくないと思うからだ。もちろん、葉が自分より壱狼を頼るのも面白くはないのだが、壱狼が葉に会うことに気付いていながら、葉にも壱狼にもそれを問いただすことができなかったのには訳がある。 「葉ちゃんの望みを知ろうともしないで、悩ませて何が番犬か」  おそらく、葉が壱狼に本当の気持ちを話すようなことはなかっただろう。葉はいわゆる天然系だが、さすがにそのくらいの分別はある。はずだ。けれど、人の感情の機微に聡い祖父の目を誤魔化せるほど葉はスレてはいない。壱狼にしてみれば、葉の気持ちなんて手に取るように分かっていたのだと思う。 「何年もそばにいたくせに、気付きもしないお前のバカさ加減には、ほとほと愛想が尽きた」  大きくため息をついて、壱狼はその辺にあった紙片を丸めて、貴志狼の方に投げた。それは、狙ったように貴志狼の額に命中して、畳の上に落ちる。  その、心の底からバカにしたような態度に腹が立つ。葉の気持ちに貴志狼より早く気づかれていたのにも、貴志狼自身の気持ちもバレバレだったのにも腹が立つ。  そして、それ以上に何も言い返せないことにさらに腹が立った。
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