後日談 結局可愛いもん勝ち

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 葉はあまり気にしてはいないが、緑風堂にだって、葉のことをどうこうしようというような輩が来ることがある。それは、晴興のような紳士的で理性的な連中だけではない。わかりやすく付きまとってくるなら、貴志狼や鈴が追い払う。けれど、それを巧妙に隠すような奴もいる。そのことをいつも心配しているのだが、葉は全く危機感がなくて、1か月近くストーキングされていても気付いていないことがあった。  だから、つい。と、自分自身には言い訳して、葉のスマホに位置情報共有アプリ。いわゆるストーカーアプリをこっそり入れてしまった。せめて、自分がそばにいないときの葉の居場所くらいは把握していたかったからだ。葉と壱狼が貴志狼に内緒で会っていることに気づいたのも、このアプリのお陰だ。  そのことを、貴志狼は誰にも言っていない。当たり前だが葉も知らない。  葉はスマホにロックをかけていないし、緑風堂のカウンターに置きっぱなしにすることもよくある。不用心だ。と、最初は注意していたが、別にみられても困らないと、あっけらかんと答えるものだから、諦めた。というか、利用した。  それを、どうして壱狼が知っているのか、理解に苦しむ。  しかも、その情報をこの場面でチラつかせてくるあたり、貴志狼には目の前のジジイが悪魔に見えてならなかった。  そのことを葉に知られたくない。と、いうのは当たり前の感情だと思う。ドン引きされることは間違いない。空気を読めるくせにわざと読まない壱狼がいつその爆弾を投下してくるか分からずに、だらだらと冷や汗を流している間にも、壱狼と葉は笑顔で会話していた。 「昨夜はよく寝れたか?」  貴志狼に向ける意地の悪い笑顔に比べれば、意地悪要素が1/10くらいに希釈された笑顔を葉に向けて、壱狼が揶揄うような口調になる。もちろん、これは、恋人として初めて過ごした夜を揶揄しているのだ。正答は『うん』と、簡単に答えるか『朝方までゲームしてて寝てない』くらいだろう。 「え? あ。…うん」  けれど、葉がそんなに器用なわけもない。わかりやすく貴志狼の顔をチラ見してから、顔を赤くして、そんなふうに答えてしまうのが、可愛いやら、ジジイの思うつぼなのがくやしいやらで、貴志狼はもう、面倒くさくなってしまった。  壱狼の爆弾も、葉のボロも出る前にここを離れたい。 「…いくぞ。葉」  だから、葉の肩を抱いて、促す。 「あ。シロ。ちょっとまって。わ」  少し乱暴になってしまったせいで、葉の足がもつれて、腕の中に倒れ込んできた。抱きつくような格好になって、その榛色の目が見上げてくる。それから、照れたように笑うから、その可愛らしさに状況も忘れて、貴志狼はその顔に笑顔を返した。
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