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マーキュリーは、屋根裏部屋で、動物図鑑を捲っていました。「へぼす」に気づくと、にこっと微笑みました。
「まあ、けがは大丈夫なの?」
「この、腹の脂肪のおかげで、ノーダメージだよ」
「へぼす」は、マーキュリーに、包帯で巻いた、お腹を見せました。それを見て、マーキュリーも、ホッとしました。
「そうだわ。ねえ、私の大事な話を、聞いてほしいの」
マーキュリーは、図鑑の中の、狼のページを開き、「へぼす」に見せました。
「私の両親、狼に殺されたの」
その声は、びっくりするほど冷えていました。あまりの冷たい眼差しに、耐えきれなくなり、「へぼす」は、そっぽを向きました。
「両親が死んだ時のことは、当時のように、鮮明に覚えているわ。両親の悲鳴に、血で汚れた畳。狼の匂い。あなたを鍋の中から救った時、本当は、殺そうと思ってたのよ」
可愛らしい顔に似合わぬ、淡々とした口調に、「へぼす」の背筋は、ゾクッとなりました。
「でも、あなた、私の前で、狼の毛皮を脱いだでしょう?それで、なんだ、中身は人間なんだ、って拍子抜けしたわ。‥‥あっ、そうだ。あなたに、謝って欲しいことがあったのだわ。どうして、猟師の家に、狼が入って来た時、助けにいかなかったの?」
鋭い声に、「へぼす」の体も、ピーンとなります。こればっかりは、ぐうの音も出ません。
「俺、図体はでかいくせに、とっても臆病なんだ。だから、狼に食われたらって思うと、体が動かなかった‥‥」
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