臆病者、へぼす

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 必死にじたばたすると、ひょいと腕をとった者がいました。その者は、この世のものとは思えないほど美しい、銀色の髪の乙女でした。くるくる巻いた髪に、真っ白い睫毛。空色の澄み切った瞳に、おもわず見とれてしまいました。こちらをじっと見ている少女は、「へぼす」と目が合うと、にこっと、愛らしく微笑みました。 「狼さん、はじめまして。私、マーキュリーというの。よろしくね」  マーキュリーは、とてもとても優しい乙女で、狼の姿をした「へぼす」のことも、ちっとも怖がりません。 「そうだ、マーキュリー。実は、狼が山から下りてきて、大変なんだ!このままじゃあ、街の人に食われちまう」  マーキュリーと「へぼす」は、街の人を救うため、助けに行きました。もちろん、「へぼす」は、着ぐるみを脱いで。着ぐるみを脱いだ「へぼす」にマーキュリーは驚きましたが、特に気にしていない様子でした。  二人はまず、真ん中の家に向かいました。窓からそっと中を覗くと、無精ひげを生やした猟師が、銃を磨いておりました。まだ、狼には食べられていないようです。すると、玄関ががらりと開いて、一緒に山を下りた狼が、入ってくるではありませんか!まずい、早く猟師を助けないと。そうは思ったものの、臆病者の「へぼす」は、中に入る勇気がありません。両手で耳をふさぎ、目をつむり、中でガシャンガシャンいう音が、完全に止むのを、じっと待っていました。  どれくらい待ったでしょうか…‥。とうとう家の中は、静かになりました。 ビクビクしながら、中を確認すると、猟師や銀髪の乙女の姿はなく、狼のみが、でん、と座っています。
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