臆病者、へぼす

6/11
前へ
/15ページ
次へ
「俺がビビってるうちに、みんな食われちまったんだ‥‥」  自分の意気地のなさが、嫌になります。嫌悪感にかられ、うじうじしているうち、狼が家から出て、こちらに向かってくるではありませんか!   「へぼす」は、急いで、狼の着ぐるみに着替えました。丁度のタイミングで、狼が「へぼす」を見つけました。 「よお、そっちは腹いっぱい食ったか?」  狼の口元は血で汚れ、お腹はまあるく膨らんでおりました。 「お、おお…。あんたは、何人腹に収めたんだ…?」  生き残った住人の数が知りたくて、「へぼす」は尋ねました。狼は、指を折りつつ答えます。 「そうだなあ。まず、相撲取りみたいなおばさんに、その旦那。あと、猟師と銀髪の女も食ったな」 「そっか‥‥。ところで、左の家の人はどうしたの?」 「ああ、そいつはまだだなあ。実はさっき、俺が家に入るなり逃げちまったんだ。もしかしたら、もう戻ってるかもしれないな」  「へぼす」は、狼と左の家に向かう途中、今度こそは、絶対に住人を救って見せると心に誓いました。それにしても、さきほどから、狼の声が、妙に違う気がしてならないのです。確か、もっとガラガラ声だと思っていたのに、美しく甘い声なのです。気のせいでしょうか。  左の家の中は、真っ暗でした。どうやらまだ、留守のようです。ここで、待伏せしようという、狼の提案で、「へぼす」も暗闇で、待つことにしました。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加