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①地球の海賊共和国
数百件間で人類が銀河系全域に移住して無数の星間国家が乱立する時代。
星間国家といえども惑星国家、恒星系国家とタイプも様々だ。惑星国家単一で経済大国の恒星系国家に対抗できるし、恒星系国家でも後進国であれば、凌駕できる。逆に弱い惑星国家は恒星系連合という地方国際機構を組織して抗っていく。
そいうものがこの銀河系で一番無縁な恒星系がある。
「地球諸星」。
「太陽系」と呼ばれるもので、この銀河系の政治的中心地である。経済的中心地の恒星系は銀河矮小化惑星諸星である。
国という組織形態が複雑怪奇に乱立するこの銀河系。
地球諸星の首都惑星国家「地球」。
地球圏の内部となると、それはまた惑星圏内の国々がさらに乱立している。
孤島の国「海賊共和国」。
日本国の東京都所管の海の南部の海域にそれはあった。
地球から地球諸星――太陽系各地に星間航行するための地球唯一の星間航行都市である。
銀河系最高位の経済大国、惑星国家「銀河矮小化惑星と比較すれば、天文学的に小さいが一応、地球ではニューヨークを凌駕する地球圏最大の経済拠点でもあるのだ。
海賊共和国の東部には島で最長の山があり、山の頂上に1件の邸宅があった。
そこで朝から道着姿の2人の少年が武道を交えていた。
黄金に輝く長柄を短金髪碧眼の少年が振り回す。その棒術に徒手空拳のみで挑む柿色お下げ短髪の少年が挑む。素手の威力は短金髪少年の鉄棒の得物を跳ね返す。
「ケンテ!! 負けないよ!!」
「アホおば!!! このオデが負けてられるかおば!!」
短金髪の少年が黄金の棒の先端でケンテというお下げ柿色短髪の少年に叩き込む。ケンテは回し蹴りでそれを弾き返す。
「金河!!! 海賊船上功夫の棒術を使いこなせるようになってきたをばね♪」
「それは君のおじいさんのおかげですよ。ミーはこれをひたすらやってきただけなんだから♪」
刺叉金河。幼少期よりこの山頂唯一の家屋で居候をしている。それから毎日毎朝、毎晩とこの家屋の主の孫であるケンテ・パンチャーと海賊船上功夫という総合武術の稽古に励んでいる。
数百年前、人類が銀河系へと入植を開始した直後、警察機構型人類諸国連合が法治を構築するまで各企業各国家は宇宙海賊を雇っていた。民間軍事会社とは名ばかりで最初の100年間は宇宙海賊が猛威を銀河系で猛威を振るっていた。そもそも警察機構型人類諸国連合という人類規模の統治機構は銀河系各国が軍の所有を国際法「服務規程」で禁じているからだ。この孤島の国「海賊共和国」は宇宙海賊たちが一攫千金を求めて拠点としていた。
「海賊船上功夫」という武術はその昔の時代にできたのだ。しかし銀河系各国の開拓と移民が落ち着いてくると、警察機構型人類諸国連合は各惑星に駐屯させている警察署の増設と増員を強化した。それは宇宙戦艦や防衛力でもある。宇宙海賊も取り締まりも強化されて宇宙海賊はほぼ働き口が一掃された。とはいえ、銀河系有数の金持ちたちが裏社会から宇宙海賊を雇っているケースはゼロではない。
ケンテと金河の体得したこの武術はその時代の名残りである。早朝から日常的に繰り返している修行を続けていると、木造の家屋から眼帯をしてカリブの海賊のコスプレをしているかと思われても仕方がない身なりの老人が現れる。
「こらをば!!! ケンテ!!! 金河!!! 麓の中学校に遅刻するど!!!」
「お師様。すいませんです!!」
「爺様。すんまへん」
ロウスイ・パンチャー。今でも銀河系各地の金持ちからは個人専属私兵になってくれとスカウトされるうらいの宇宙海賊である。
「ワテは裁判所に行ってくるさかいにな。「治安判事」から星海外よりご客人から来るから出迎えないといけないでな」
ロウスイはそう言って手作りの焼きパンを2人に投擲して渡すと、杖をつきながら出発する。ケンテと金河はその焼き立ての朝食を受け取って頬張る。そして学生鞄を取り出して自宅の施錠をすませる。
少年たちの登校が始まった。
「金河。日本という国ぢゃーー、総理大臣が一番偉いをばか? 皇室が一番偉いをばか?」
「ケンテ? 何をいったい?」
ケンテは疑問に思っていたことがあった。それを金河に言い、金河はその疑問に回答する。
「イメージで一番偉いといえば、皇室。次に総理大臣だな。で、東京の近海にあるこの独立国家「海賊共和国」で一番権力を持っているのは「治安判事」さ。海賊条項裁判所はこの国の政府であり法律を意味するんだよ。宇宙海賊の一斉取り締まりを警察機構型人類諸国連合が始めた時に当時の治安判事が警察機構型人類諸国連合の上層部と交渉して独立自治権を認められた。ま、日本政府は経済的不況を海賊共和国の恩恵で打破できたからね。警察機構型人類諸国連合の上層部には内閣府全員で交渉していたからね」
この海賊共和国では治安判事が国家元首であるといことがケンテは理科した。
山道を下山していく最中、2人は足を止める。
山道の先にたくさんの巨大な果実が転がっている。その巨大な果実の大きさはスイカぐらいである。見た目はカボチャである。しかし色合いも様々だ。そしてその中で大きなカボチャもどきからツルで胴体と手足を生やしている人型がいる。その巨大な果実たちには人の顔のように目、鼻、口が彫られている。それらたくさんある果実は金河とケンテの存在に気付くと、笑い声をあげだした。
〓〓素材提供元:背景はぐったりにゃんこ様、モンスターは material world様
「廃棄された禁断の果実――擬似餌か……」
「不法投棄はやめてほしいおばね……」
たくさんの果実は金河とケンテに目掛けて動き出した。転がりながら肉薄してくる。ツルの手足と胴体を持つ一番巨大な果実が司令塔のようだ。
銀河系開拓時代、農業をうまく進めるために害虫害獣向けに銀河系最大の複合企業――株式会社イオンスラスターコーポレーションの農業専門事業部が開発した農薬があった。それが彼らに食わせるための毒薬――擬似餌である。毒の果実ともいわれている。この擬似餌には脳細胞と神経細胞が移植されており、知性を持ち人語も理解できるのだ。それは農業をする上でどの害虫害獣に食われるかと命じるためである。
この擬似餌が過剰に余りすぎたとき、有償で廃棄しないといけない。専門産廃業者がある。不法投棄は国際法「服務規程」で厳しく禁じられている。
捨てられた疑似餌は人間に対して凄い憎悪と敵意を持っている。麓の農村部が余った擬似餌を有償廃棄が嫌になり、この山に不法投棄したのだ。
農家にひどい恨みを持つ果実たちはその怒りの矛先をケンテと金河に向けたのだ。
「この果実どもには視神経細胞も移植されているから一見、視力はないようであるんだをば!!!」
海賊船上功夫の体術の使い手であるケンテは身構えて正拳突きを打ち放つ。先頭から迫ってきた疑似餌を粉々に打ち砕く。別の疑似餌は口を開いて金河に襲い掛かる。金河は愛用の黄金に輝く鉄製の長柄――長身金箔鉄棒を振り上げる。鉄の打撃がその疑似餌の果実を一瞬で散らせる。
「オロロロロロ!!!! オロロロロロ!!!!」
それが疑似餌たちの鳴き声である。ケンテは蹴りの連射を浴びせる。蹴りの連射で疑似餌たちは掃討されていく。疑似餌たちも負けてはられない。1個の疑似餌がケンテの頭部に嚙みつこうとする。その疑似餌をケンテが裏拳で砕くと背後から別の疑似餌が肩に噛みついた。出血する。
「おんどりゃーーああ!!! 痛いをばあああ!!!!」
肩に噛みついた疑似餌を拳打で粉砕する。
金河は長身金箔鉄棒を扇風機のプロペラのように振り回して襲い掛かる疑似餌たちを次々と打ち砕いていく。
「麓の農家の人らもう少し考えて疑似餌を買えったほうがいいのにね!!!」
「同感をば」
金河は硝煙のような臭いが鼻元に漂ってきているのに気づく。そして銃声のような音が響いてきた。それが何であるかケンテと金河は理解していた。何かが自分に迫ってくる。長身金箔鉄棒でそれを叩き落す。
「オロロロロロ!!!!」
一番大きい果実の頭をした人型。それはツルの手を拳銃のような形状にして
先端から果実の種を銃弾のように発砲している。
「飛種か!!!」
「栄養価の高い熟成疑似餌をば!!! 疑似餌は害虫害獣に食われるが……逆に種を寄生させるんや。寄生虫のようにをば。宿主の肉体や内臓を食いまくって最後に食い破るんだ。害虫害獣の肉の成分を手にした疑似餌は熟成する。飛種には気をつけな!!! 中には寄生させるのが目的のもあるんやで!!」
ケンテは駆け足で果実頭の人型――熟成疑似餌の始末を優先する。それを彼らの子分である疑似餌たちが立ち塞がる。ケンテはパンチと蹴りで疑似餌の子分どもを潰していく。それを熟成疑似餌は狙撃しないわけがない。拳銃を模した手をケンテの方向へ向ける。発砲する。大気を貫く種子の弾丸は金河の長身金箔鉄棒で叩き落される。
「ちゃんとした農作物を育てるために田畑や牧場に放たれたお前らには同情するがよ。この自然界で生きているのはミーたちも同じだ。そこは弱肉強食の原理でいくよ」
金河は長身金箔鉄棒を振り回しながら疾駆する。熟成疑似餌は飛種を2秒の感覚で連発していく。しかしそれらは金河の得物によって叩き落されていく。そして眼前まで迫られ乾竹割に真っ二つに叩き潰される。引き裂かれた熟成疑似餌は緑色の液体を撒き散らしながら絶命する。
司令塔を失ったことに驚いた子分の果実どもは即刻、退散していった。
「海賊条項裁判所の害虫害獣駆除係に通報しとくかなアカンな。爺様に会いにくる人に襲ってきたら危ないをば」
「疑似餌の不法投棄――禁断の果実問題は去年にまで続いた銀河系規模の大事件――兎耳娘大走査線以前からあったからね……。銀河系開拓時代最悪の負の遺産だよ」
兎耳娘大走査線。
バニースーツを着た女子中学生名探偵が全人類全滅を企む巨大な陰謀を解決した連続殺人事件である。連続殺人事件といっても死傷者の数は1個の惑星の住民が全滅することが頻発するほど宇宙戦争並みの大被害である。
その連続殺人事件が解決して銀河系に平穏が訪れたとはいえ、深刻な社会問題はそれなりにある。
不法投棄された疑似餌の野生化が最たる例である。
ケンテと金河は山道の下山を再開し、それから1時間くらい経過すると、ようやく海賊共和国の西部――市街地へと到着した。
市街地はビル街が立ち並びドクロがマークの青い旗が屋上に設置して飾っている。青い旗にドクロのマークはこの国の国旗である。市民たちが歩道を行き交っている。ケンテと金河は歩道を歩きながら中学校を目指すのだった。
市街地に入ってから中学校へは10分くらいで到着した。授業が始まるのが9時半からであり、山の上り下りで登校時間がかかる金河とケンテのことも考慮してくれている。
ケンテと金河は自分たちが所属する教室に入る。
〓〓素材提供元:ともことゆり子の小説の部屋様
教室に入り、金河とケンテは廊下寄りの机が自分たちの席であり、座席に座る。すると銀髪のセミロングの少年が近づいてきた。黒いブレザーで着ている。私服中心の中学校であるが、一応、制服も存在するのだ。
「……おはよう……金河君……ケンテ……」
「おはよーさん、シリウス♪」
「シリウス君。おはようございます」
市街地に暮らしているクラスメイト、シリウス・フォクリフト。ケンテと金河の幼馴染である。いつも無口でコミュニケーションが苦手である。このクラスでも心を開いているのは金河とケンテだけである。
「……今日も疑似餌に襲われたの?」
「そうだね……。海賊条項裁判所には通報したから警察の人らが出動してある程度は片づけてくれると思うけど……。麓の農家の人らの不法投棄は無くならないね」
「……農村部だけじゃないからね……。日本の方からも業者が不法投棄しに来ているんだって……。本当に困るよね……」
金河はシリウスと談笑していると、シリウスの背後から何かが飛来してきたのに気づいて手づかみで止める。丸めた紙屑だった。窓辺から嘲笑が聞こえてくる。窓辺のところにはリーゼント頭の少年、モヒカン頭の少年など中学生の不良たちがいた。非行に走る子供たちのリーダー格の嘲笑が特に大きかった。
「武蔵!!!」
「どうしたんだ? 金河さんよ~~~。ゴミ箱があると思ってゴミくずを投げただけだよ♪」
シリウスを虐めているこの教室の不良連中のリーダーだ。シリウスは沈黙したまま、嫌そうな顔をしている。
「いい加減にしろ!!! シリウスが弱いからって虐めるのはダサいだろ!!」
「学年トップの成績だからって生意気なんだよ。だからよ、このクラスの秩序ってのを教えてやってんだ」
武蔵たちは嘲笑を続ける。ぼーっと突っ立ているのが悪いとか色々と正当化されない理由を述べていく。
ケンテは歯噛みしながら憤慨し、武蔵のところへ近づいてくる。武蔵を守ろうと舎弟の仲間たちが守ろうとするがケンテの肘打ちを腹部にお見舞いされて苦悶の表情で倒れこむ。
「武蔵!!! 今度こそを決着だ!!!」
「ケンテ!!! いいだろう!!! どちらが学年最強か決めようじゃねえか!!!」
武蔵とケンテが喧嘩を始めようとしたら予鈴が鳴り出した。それと同時に担任の男性教師が教室へと入ってくる。ケンテと武蔵は喧嘩態勢を解いて舌打ちをして決着は放課後だなと台詞を言い、自分の座席に戻る。
朝のホームルームで担任教師はいきなり転校生を紹介すると言い出した。それはありがちな話であるが、今そのありがちなことが起きている。
「と、言っても今週1週間のみだけどな。ニュースを見たかもしれないがこの海賊共和国は星海外からの親善大使を招いて会談を行っている。そのため、親善大使に同伴している方が留学したいと申し出て我が中学が請け負うこととなった。それでは入りたまえ♪ 太陽系連合国家――地球諸星の加盟国、火星王国の姫君、テレナ・ヘナ・マズオーシャンさん」
男性教師が呼ぶと教室の中にい白い洋服を纏い、ベレー帽をかぶり、眼鏡をかけた茶色い長髪の少女が入室してくる。
「皆さん、初めまして余は火星から参ったテレナ・ヘナ・マズオーシャンと申す(*'▽')」
満面の笑みが教室を覆った。火星王国。地球にあるさる王家の分家が建国した立憲君主制である。警察機構型人類諸国連合に国防を委任し、警察機構型人類諸国連合の軍事担当機関――機動隊の複数個恒星系広域防衛のために1拠点でもある。そのために警察機構型人類諸国連合から多額の賃料を支払ってもらい、経済的に潤沢である。
テレナは教卓の前まで移動すると、生徒たちに頭を下げて挨拶をする。
「火星のプリンセス!!!」
「な、何で火星王国がこの日本よりも極小の島国やってきたの?」
金河はロウスイ・パンチャーの所用の中身が理解できた。ロウスイ・パンチャーは海賊条項裁判所の最高議決機関の政治家であり、外交担当という閣僚でもある。「海外」といえば、日本、アメリカ、中国となるが、「星海外」となれば、星間国家である。
「地球の海賊共和国は火星、月、四方軌道都市同盟、木星など太陽系諸国の外交拠点なのじゃ。外宇宙諸国との外交は余ら太陽系諸国には関係ない。後学のためにと余は地球を見てみたくて同伴に志願したのじゃ」
地球への視察であれば、警察機構型人類諸国連合と太陽系連合国家地球諸星の首星首都を兼ねるイオルムンガンドルにある公立ヨーロッパ大学付属中学校などを選ぶはずだ。それか隣国の日本国にも超エリート中学校もある。何故、地球の辺境国家の田舎中学校を留学に選んだのかは理解できない。
しかし留学を望んだ以上、クラスとして受け入れるしかない。担任教諭はテレナに金河の横の席に着席するように指示する。テレナは素直に応じて金河の横へと移動して座る。
「初めまして♪ 其方の名はなんと申すのじゃ(^^♪?」
「刺叉金河という。よろしく」
テレナは挨拶にと握手を求めてきたので金河は応じる。色々と話したいことがあるが担任教諭は授業を始める。
【公語】
銀河系共通の言葉である。日本語と英語を兼ねた教科であり、銀河系開拓時代に広まった。警察機構型人類諸国連合が各国に必修科目として指定した。英語は宇宙に移民する前から世界共通語であったが、銀河系開拓に大貢献した株式会社イオンスラスターコーポレーションのお陰である。
【機数】
元々、数学や算数と呼ばれていたが、プログラミングも兼ねたことにより、人類総括プログラミング時代に突入してから数百年が経過してある程度の電子演算構築力は産業革命期の識字率の高さのように誰でもできる。
【星理】
理科や物理とも呼ばれていた。宇宙に移民することで様々な科学が枝分かれし、宇宙移民を想定した授業へと改定された。
【軍体】
体育であったが、有事の避難や戦闘を想定した内容も追加された。惑星規模の強盗事件は日常茶飯事であり、それに合わせた民間人の基礎課程として警察機構型人類諸国連合が命じた。警察機構型人類諸国連合にとっては思想教育も兼ねている。
【地史】
世界史と各国の歴史を合わせている。地球の歴史はかなり要約や割愛されている。西暦1999年後半に恐怖の航宙技術と呼ばれるものが突発的に誕生して僅か1年間で全人類は地球規模、太陽系規模の大戦乱――第3次世界大戦が勃発した。戦後、警察機構型人類諸国連合という人類規模連邦制統治機構が組織されて宇宙移民が始まった。銀河系各地の恒星系国家、惑星国家は警察機構型人類諸国連合から治安と国防を肩代わりしてもらう代わりに独自の公的武装勢力を持つことを禁止された。
という5教科と別の科目が1週間近く続いた。
〓〓素材提供元:背景はNiraiStyles様
放課後、市街地で一番観光の名所である海賊通り。テレナとはあれからよく話すようになった。地球の歴史や地理についてあれこれ質問してくる。このクラスでオシリスと首位を競うほど総合的に金河は高成績である。ゆえにテレナの質問にはことごとく回答する。明日はテレナの1週間地球留学の最終日であり、海賊共和国で有名な商店街に遊びにいくことにした。
「金河くん♪ このブロックサーモン酢飯は美味しいのう♥」
魚屋でテイクアウトに購入した海鮮丼をテレナはスプーンで掬いあげて口へと持っていく。サーモンをブロックの形に分厚く切り分けたものだ。
「うまーーーいのう♥ 火星王国にも海があるが、人造天体改築された海とは違い、天然の海で捕獲した鮮魚は異なるのおおお♪」
「地球でも日本は生の魚を食べる文化が発展しているからね。喜んでくれて幸いだよ」
銀河系各地に移民した住人は、地球のヨーロッパ料理を楽しみにしている反面、日本の海鮮料理も楽しみにしている。人造天体改築された惑星で捕れる魚というものは、地球の用語でいえば「養殖の味」に比較的近い。計算されたような味である。しかし人造天体改築ではなく、奇跡的な天然物といわれる「地球」では未知数未踏の味を食せるのだ。
テレナは感激しながらサーモンの厚切りを食べついていく。それに金河はかなり満足していた。
テレナと金河が2人っきりで談笑しながら歩いているのを背後からティラミスの手持ちケーキを頬張りながら怒りの視線で見ているシリウスと、八丁味噌のかかったマグロのフライを丸かじりしているケンテがいた。
「……面白くない……」
「何が面白くないだをば? 美味しいだろ♪ 海賊通りをテレナに紹介すると言ったら爺様が特別にお小遣いをくれてな♪ なら、大好物のマグロのフライに決まっているやろ♪」
「……違う……。金河くんとあんなにイチャついて……不愉快……」
シリウスはテレナを好いていなかった。金河が地球の文化や歴史について高説をし、それをテレナは熱心に聞く。まるで教師と生徒の関係のようだ。中間テストや期末テストでは成績が怪しいケンテを教えながらシリウスと金河はお互い苦手な科目を教えあっていた。
「シリウス……。お前は男やろ? 嫉妬なんて意味が分からないをば。そんなことよりや。食べることに専念するをば♪」
ケンテは残りのマグロのフライをたいらげていく。
テレナは海賊通りに個人経営の書店を見つけて少し立ち寄っていくと言う。金河とシリウス、ケンテはまだ食事中なので外で待つことにした。
書店でテレナが探すのは地球にまつわる書物である。電子書籍が定番であるのだが、地球の木材で生成された紙に印字された書物をテレナは欲していた。
「よ♪ 火星のお姫さん♪」
青いジャケットを着たリーゼントの少年が話しかけてきた。留学先のクラスで「武蔵」という少年と群れている不良仲間である。
「其方は……確か……――!!!!」
後ろからハンカチらしきものが口元に押し当てあられる。ハンカチに何か染み込ませてある。ハンカチを染めたのが即効性の睡眠用の飲み薬だと後ほど判明する。テレナは気を失った。失神したテレナを背後からモヒカンの少年が抱擁する。
「お姫さんを独占しやがって!! ケンテたちに大恥をかかせてやるんだ!!」
「先輩たちはもうすぐやってくる。俺たちは秘密基地にこのお姫さんを連れていくぞ!!」
武蔵の舎弟たちはテレナを拉致して書店の裏口から店主に見つからないように脱出する。
何分経過してもテレナが戻ってこないので、食べ終えたケンテたちが店内にテレナの様子を見に行こうと思った時だった。観光客が往来していたこの繁華街はいつしか派手な私服の未成年たちが行き交っている。そして金河たちに敵意の視線を送ってくる。
「武蔵の先輩達をば……」
ケンテは即座に察知していた。「特攻服」というのを纏っている少年たちが鉄パイプ、金属バット、ナイフなどを携えながら敵意を浴びせてくる。だが、暴言へと発展させている非行の少年が近づいてくる。
「よ~ケンテ♪ 先月は俺たち地元暴走族「海賊連合」を半壊させてくれたよな~~♪」
この島では小中高大学の不良たちを取り纏めている半グレ組織である。同じクラスの武蔵はこの半グレ組織の首魁が可愛がる義弟である。ケンテと金河を舎弟とするべく中学生と高校生による大軍で喧嘩を仕掛けたが、海賊船上功夫に精通したケンテと金河が孤軍奮闘して返り討ちにしたのだ。
「義弟くんがよ。お前さんの大切なお姫さんを拉致ったから俺たちの秘密基地に来いってよ!!!」
テレナが中々書店から出てこない原因が理解できた。暴走族たちが大軍で押し寄せてきたのは伝達薬と足止め役を兼ねているからだろう。
「先輩がた♪ 親切に教えてくれておーきにやで♪ んじゃ~~お礼に一発いきまっか♪」
ケンテは拳の流星を高校生の暴走族に降り注ぐ。その高校生の暴走族は顔面に一時的に溝ができて鼻血を放流する。その暴走族が卒倒した瞬間、地元界隈を賑わせる不良と暴走族たちが一斉に襲来してくる。
「シリウスはミーの背中に隠れて」
金河は長身金箔鉄棒で身構える。言いつけ通り、シリウスは金河の背中に潜む。2名の不良が金属バットで殴りこんでくる。金河にはそれら2本の金属バットの軌道が先読みできた。棒術の打者は打率100パーセントで金属バットごと、2名の不良を卒倒さよならホームランに打ち飛ばす。
「先輩、宇宙だったら遅いですよ♪」
「ふざけるなーーー!!!」
特攻服のリーゼント、モヒカン、オールバックと様々な髪形と頭髪を多彩な色で染めた不良少年たちが肉薄してくる。それにケンテは蹴りの連射を浴びせていく。不良たちは視界が暗転したと思ったら爆睡するかのように意識を失った。
金河の棒術はまるで川を遊泳する大蛇のように不良たちの間を切り抜けていき、同時に棒術の大蛇が不良の急所にくらいつく。激痛を感じたあとは気絶していく。
「俺たちは宇宙海賊の末裔なんだぞぉおおお!!!!」
「海賊船上功夫を体得してなかったらただの口先ボーイズをば!!!!」
肉食動物が自分の子供に狩猟を教える。それは草食動物の動きを教えるのだ。その如くケンテと金河はチンピラの動きの読み方をマスターしている。ゆえに先読み先回りでは彼らを退けてトップランナーになれる。武芸という技巧のないぶっつけ本番の暴力は整えられた武力の前には全く成すすべがない。
次々と不良たちはこのメインストリートに再起できないほど失神するか悶絶するかである。
「おい!!! お前の大事な銀髪少年ちゃんが離れているぞ♪」
一騎当千のように乱舞していたら守らなくてはいけないシリウスのことを忘れていた。鉄パイプを持った不良が2人、シリウスにかかる。ケンテと金河は駆け足でシリウスのもとへ戻ろうとするが間に合わない。シリウスは泣きながら不良たちの挟撃に蹂躙されるしかない。
「シリウス!!!」
「………はぁ……仕方ないよね……」
恐怖の渦中、シリウスは先ほど恐怖で表情を歪めていたが、いきなり無表情になり溜息をつく。そしてブレザーのネクタイを緩めて胸の方へ手を突っ込む。そして包帯のようなものを取り出した。それと同時い折りたたまれた何かを取り出した。それを振るうと折りたたまれたそれは大きな鎌へと急速に変形する。
「殺しはしないけど……その殺意は……殺すからね……」
シリウスは大鎌を握りしめている。同時に胸が大きく膨らんだ。
「こ、こいつ女子か!!!」
「その呼び方は嫌いかな……」
大鎌を振るう。不良たちの鉄パイプをマップ断つにして大鎌の長柄で不良たちの眉間に叩き込む。不良たちは卒倒した。
シリウスの胸部が女子のように膨らんだ。しかもテレナや他の女子よりも大きい。
「シリウス、て女の子だったの!!」
驚きも驚きである。金河とケンテはシリウスが気弱でひ弱な少年だと思い込んでいた。シリウスは溜息をついて謝る。
「……騙しとして御免なさい……僕はこの中学の女子交番をしているの……。君たち在校生の中学生活の安全とテロ思想に染まらないか監視も兼ねたね……」
将来、警察機構型人類諸国連合の警官に就職することを望んで警察の塾に通う子供がいる。実力ある者がいれば、小中高大学や専門学校の秘密警官見習いとして潜伏する都市伝説を聞いたことがある。シリウスがその最たる例である。
「ま、1国のお姫様を拉致った時点でテロ思想に染まっている危険性が高いから……僕は彼らを補導しないといけない……。ケンテ……と……金河くん……。捜査に……協力して……くれないかな……」
シリウスは親友であるケンテと金河に自分の秘密を黙っていたことに罪悪感を感じた。実際、学校では彼らしか交友関係はないのだ。演技抜きでシリウスは友達作りが苦手である。
「お……お前……女の子だったのか……関係あるわけないをば!!」
「そうだよ♪ むしろ異性の子と友達ってのはミーたちにとって貴重な青春体験さ♪」
金河とケンテは大いに喜んだ。ケンテはシリウスの胸部をずっと直視している。さらに品定めしているように観察している。それに気づいたシリウスは赤面になり、胸を両腕で隠す。
「うわぁあ!!! 見るなよ!!!!」
「大人しめのキャラで尚且つハト胸はズルイをば!!!!」
ケンテとシリウスは口喧嘩をする。そのやり取りに金河は微笑んでしまう。シリウスが女性であることにも驚愕したが、男を偽っていたことを告白してからシリウスの顔つきがどことなく柔らかくなった。素顔なんだろう。金河は、路上で悶絶している不良の1人にテレナの居場所を聞き出す。
「総隊長と武蔵くんは………水力発電所の裏棟……」
秘密基地の本拠地が判明した。しかしテレナの居場所を知ったシリウスは表情を曇らせる。
「廃ビルや廃工場じゃなく……厳重に警備されているはずの……発電所……」
シリウスは嫌な予感を感じてた。
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〓〓素材提供元:背景はWATERWATER様
海賊共和国の孤島最西端の岬には潮流を使用した水力発電所がある。そこには裏棟があり、水力発電所警備のための武器庫と警備員の宿舎でもあった。その裏棟の最上階の管制室にテレナは連行された。そこにはグレーの戦闘服を纏い、軍用ヘルメットを被った18歳の少年が佇んでいる。軍用ヘルメットには「GEVIL」と英語で書かれてある。
「総隊長!! お姫さんを連れてきたぜ♪」
武蔵は義兄弟の契りを交わした半グレ組織の首魁の言いつけ通りにテレナを拉致してきた。それはケンテと金河に大恥をかかせることも含まれている。
「義弟よ。上出来だ。このプリンセスを本国へと引き渡せば、俺は士官へと昇格できるぜ♪」
高校を中退した少年は可愛い弟分の頭を撫でる。武蔵は人生の大先輩に褒められて嬉しかった。
「総隊長。俺ら地元暴走族「海賊連合」はもっと発展するんだろ? なんかその特攻服は格好いいな!!」
「義弟よ。戦闘服っていうんだ。俺様はこの国をかつての宇宙海賊が縄張りを利かせて黄金時代を再興させるんだ!! そのためには大きいスポンサーが必要不可欠なんだ!!」
「総隊長よ。去年で銀河系が救われた兎耳娘大走査線以来、銀河系規模の巨大犯罪組織網は壊滅したんだぜ……。そういう大きい国家や組織はないじゃないか……」
武蔵は少し疑念を感じていた。警察機構型人類諸国連合の本拠地であるこの地球において監視の目を搔い潜れるほどの犯罪組織があるわけがないと。
管制室に武蔵と同じクラスメイトのリーゼントヘアーの舎弟が入ってきた。
「総隊長!!!! 金河たちがこの潮流水力発電所に来やがった!!!」
「そうか……。来やがったか……。武蔵!!! 疑似餌をここいら一体の生き物に食わせたか?」
「ああ……。本当は服務規程と海賊条項裁判所が禁止しているけどよ。俺たち暴走族が宇宙海賊の荒くれた暗黒時代を取り戻すためだ♪ やってやったぜ♪」
逮捕されるくらいまで犯罪に手を染めた総隊長は嘲笑を浮かべながら舎弟たちに指揮する。スポンサーに指示されたことを達成すれば、クーデターを起こせるくらいの戦力を提供してもらえる。この裏棟への抜け穴もそのスポンサー傘下のダミーカンパニーが突貫工事してくれた。テレナの拉致が総隊長にとっての重要な使命である。
100人以上の暴走族を半壊させた武道に秀でた中学生たちを迎え撃つために武蔵たち海賊連合は万全の準備を整えている。
潮流水力発電所の正門にある詰所の駐在警官にシリウスは女子交番の警察手帳を提示する。テレナが誘拐されてこの発電所施設の裏口にある「裏棟」に監禁されていると伝える。詰所の駐在警官は直ちに所内の警備部隊を招集して奪還のために向かわせると言ったが、テレナの身に危険が及んだらいけないのでシリウスたち小部隊で奪還作戦を決行することを伝える。あと、発電所内の地中を突貫工事をして抜け道を作り、そこを悪用して半グレ組織「海賊連合」が新たな拠点を作った可能性があるのでその調査を頼んだ。
正門を通されて金河とケンテ、シリウスはテレナの救出に向かう。発電所はかなり広域で裏棟に行くまで軽く1時間近くは要した。海に面した灯台のようなものが建造物がそこにあった。そこが有事のための武器庫と見張り番用の宿舎も兼ねている「裏棟」である。裏棟には10人以上の特攻服姿の暴走族と派手なジャケット姿の不良たちが門番をしていた。金河たちに気付くと、手持ちの得物を振るいあげて迫ってくる。ケンテは単身で突撃をかます。パンチと蹴りの先回りが不良や暴走族たちを眠らせていく。1人の暴走族が鉄バットで叩きつけてくると、ケンテは片腕で防ぎ、回し蹴りでその暴走族の少年を静かにさせる。
「総隊長の奥の手がこの裏棟にはある!!! お前ら後悔するぞ!!!」
と、捨て台詞を吐いて最後の不良が殴り飛ばされる。大人数の門番を起き上がれなくして3人は裏棟の中へ入る。
〓〓素材提供元:恐竜の絵はqut様、背景はmakoto様
「え!!! 肉食恐竜!!!」
裏棟の内部は配管と電線が入り組んでいる。しかもそこには牛くらいの巨体を持つ2足歩行の爬虫類が跋扈している。さらには半グレ組織「海賊連合」の舎弟たちが凶器を片手に金河たちを待ち構えていた。
「……ケンテ……よく見てみるんだ……」
シリウスが指さす方角、そこにはカボチャのような大きな果実にしがみついて咀嚼しているトカゲやヤモリがたくさんいる。それは禁断の果実「疑似餌」であった。疑似餌を咀嚼したトカゲやヤモリたちは徐々に巨大化していく。ワニのサイズかと思いきや牛くらいにまで大きくなる。
「生物や昆虫の肉体を寄生して悪用して害虫や害獣を始末する害獣転移株。兎耳娘大走査線で恐れられた凶悪なウィルスに感染したご遺体が怪物へと急速に進化する。その原理を解明して遺伝子操作された疑似餌だ。わざと食われて害虫害獣を怪物化させた「鎧」にするんだ。それを対人用に……悪用しやがったな……」
シリウスは歯噛みする。この危険なタイプの疑似餌を入手できるということはこの半グレ組織には「黒幕」がいることは明白だ。武蔵がケンテと金河に赤っ恥をかかせることが目的としたらかなり悪事に手入れいきすぎている。
「お前ら!!! 金河たちにかかれぇええ!!!!」
「オロロロロロ!!!!」
害獣転移株と化した肉食恐竜姿の疑似餌が数体、接近してくる。暴走族や不良たちも凶器を片手に進撃してくる。
先行したのはケンテだった。脱兎の勢いで拳を狙撃銃の弾丸のように音速で放ち、疑似餌の下顎に叩き込む。顎が粉砕された疑似餌は大きな尻尾を鞭のようにうならせて上段から落としてくる。ケンテはそれを片腕で受ける。金属バットで力一杯殴られたような激痛が襲う。海賊船上功夫の極意は激痛を感じても骨や人体への衝撃をできるだけ減らすことである。痛めた腕で肘打ちを疑似餌の側頭部に打ち込んだ。その肘打ちは槍の鋭さを持ち、疑似餌の頭部を陥没させる。その肉食恐竜の姿をした疑似餌は突っ伏して朽ち果てた。
不意打ちをしてでもこの体術のアマチュアマスターを打ち倒せば、この島国では悪名が轟くだろう。慕う後輩たちが増えていく。それを妄想しながら不良や暴走族たちが鈍器や凶刃を振り上げて襲う。それを金河の棒術が奇襲する。ひと突き、ひと突きがバイクのような速度と打撃力を併用する。卒倒するのに気づかない。あとで目覚めたら病院のベッドである。数人の十代の落伍者たちが昏倒していく。
疑似餌が2体、金河に突進してくる。胸元から折りたたみ式大鎌を取り出して即座に組み立てたシリウス。彼女は大鎌を振るって疑似餌の1体を両断しようとする。しかし疑似餌は鋭い口でそれを噛んで真剣白刃取りをする。そして硬い尻尾を振るってシリウスを目掛けて狙う。ケンテがそこを防ぐ。
踵落としでその尻尾を破壊する。
「……ありがとう……」
礼を呟き、シリウスはその疑似餌を口から胴体ごと真っ二つに切り裂いた。片方の疑似餌は大きな口を広げて金河の上半身をかぶりつこうとする。金河は長身金箔鉄棒でその疑似餌の喉元を刺突する。音速の勢いとバイク並みの打撃力は易々と疑似餌の首の骨を骨折させた。続けて棒術で疑似餌の頭部を薙ぐ。頭部が粉砕されて疑似餌は即死する。
裏棟1階で巡回していた不良、暴走族、疑似餌の掃討は完了した。奥へと続き、階段を発見する。金河たちは駆け上がる。凶器で武装した不良や暴走族たちが上の階から駆け下りてきた。ケンテがまたもや先行する。蹴りと拳は彼らの急所に到達する。痛恨の体術が彼らを昏倒させていく。
ケンテが無双乱舞していき、雑兵の如く年上や年下の非行少年たちを始末していく。誰もがケンテのスピードに追走することはできない。しかし、それを可能にする者がいた。どこからか音速の蹴りが飛んでくる。ケンテはそれを両腕で防御して受け止める。
「武蔵!!!」
〓〓素材提供元:背景は河童様
体術で身構える同級生の不良中学生がそこに佇んでいる。
「ケンテ!!! 俺ら半グレ組織「海賊連合」をここまで全滅させてくれたな!!! 今回という今回は容赦しないぞ!!!」
「武蔵!!! それはワイらの台詞をば!!! 俺らの対立にお姫さんは関係ないやろうが!!!!」
武蔵のパンチの軌道は行き当たりばったりではなかった。視線通りに飛んでくる拳にケンテはパンチで打ち返す。激痛や衝撃を散らすことができない。必要な打撃箇所に必要な威力を注ぐ。海賊船上功夫のアマチュアマスターは武蔵も同様であった。
「お前のじいさん、ロウスイ・パンチャーには2名の好敵手がいた。その1人の孫が俺だ!!! 俺はこの拳で多くの高校生や中学生を舎弟にしてきた!!! お前も俺の舎弟にしてやるよ!!!」
武蔵の放つ蹴りの精度は高い。威力もさることながらケンテは防戦一方になる。
「金河!!! シリウス!!! お姫さんを連れてきてないということはこの上の階の奥にお姫さんが監禁されているはずをば!!! ワイはこいつと決着をつけるわ!!!」
そもそも一介の男子中学生が200名以上の不良チームの大幹部になれるわけがない。武蔵とは口喧嘩しかしたことはなくて毎度、高校生や中学生の舎弟がケンテと金河に襲撃をしかけてきた。返り討ちにしてきてケンテも武蔵の力量は大したことないと思っていた。
防戦一方、体術の軌道を先読みできない。ロウスイ・パンチャーは宇宙海賊時代、多くの同業者を格闘して倒して舎弟につけてきた。そんな無敵の祖父でも勝ち負けを繰り返す強敵がいた。その孫が武蔵なのだ。
視力では追跡しきれない蹴りがケンテの腹部にめり込む。ケンテは壁まで吹っ飛ばされる。
「どうした!!! 今までいきがっていた癖に弱いな!!!」
武蔵は駆けながら連撃を続ける。実力差を身体の痛みで教えてやろうと拳を振りかぶる。
「手払い三日月!!!」
左拳を上げ、相手の右脇腹にある肝臓に迅速に打ち込んだ。武蔵は嘔吐する。先読みが追い付かなかった。その打撃の威力が凄まじく武蔵は転倒する。ケンテは両手を手刀と握り拳とグーパーグーパーのように開いて閉じてを繰り返す。
「呼び名が技を使ってやるをば。今までは基礎基本やで♪銀河系ではこのように通用しないんや」
ケンテはようやく望んだレベルの相手が現れて喜んだ。
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