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テレナは目を覚ます。そこは石造りの建物の一室だった。両腕が背中の方と両足が縛られている。外から波打つ音が聞こえてくることからこの建物が海辺であることを知った。自分がいる場所が独房であることを知る。テレナが目覚めていることに門番らしき男が気がついた。黒い軍服を纏い鉄製のヘルメットを被っている。鉄製のヘルメットには「GEVIL」と書いてある。テレナはその名前の意味を知っている。
「……時代錯誤な……」
「哀れな視線で見ないでくれないか……。残念ながら俺はその名前の意味を有する末裔ではない。末席に入れてもらう予定だ」
半グレ組織「海賊連合」の首魁である「総隊長」は、肩書だけを欲してGEVILに接触した。彼らに認めてもらうためにはテレナを誘拐して差し出すことである。
「お前さんを譲渡すれば、GEVILは喜ぶ。政治利用ってやつさ。俺はそこら辺りには興味がない。バックボーンにGEVILがつけば、宇宙海賊の黄金期が再来すると思うからだ」
火星王国の国家元首の娘が地球に訪問すれば、彼らが狙ってくるの危険性はゼロではない。しかしこの太陽系諸国は恒星系連合地域諸国協力制度を基盤とする「地球」中心の連合国家である。地球諸星と呼ばれているし、銀河系規模、全人類規模の連邦制統治貴機構――「警察機構型人類諸国連合」の本拠地でもある。軽くテロやクーデターを起こせば、「警察」が黙っているわけがない。「GEVIL」という集団もそれを理解しているわけだ。目の前の少年はその集団創設時からの末裔でもなければ、その集団の末席、末端でもないのであろう。一応、「自称」というわけだ。
「直ちに余を解放しなさい。そうすれば、警察機構型人類諸国連合には通報しないであげるんじゃ」
「無理に決まっているだろ♪ 俺たちは大きい花火を見たいんだよ♪まずはあの人らに認めてもらわないといけないんだよ」
総隊長が夢物語を語ろうとしたときだった。遠くから悲鳴が聞こえてくる。舎弟の武蔵には牽制に向かわせてから10人近くの舎弟たちをこの最上階の通路に配置して迎撃させようとした。どうやら簡単に伸されたようだ。
2名の少年たちが近づいてくる。1人は道着を纏い、金色の鉄棒を持つ金髪の中学生。もう1人は大きな鎌を握りしめる学ラン姿の少年――胸元が異様に大きい男装した少女にも見える。
「金河くん!!!!」
「テレナ無事か!! ふーーー良かった……。総隊長。女の子を人質にとるなんて男らしくないですね……」
金河は長身金箔鉄棒を突き出して総隊長を挑発する。
「好きなように言え、舎弟たちからは反対意見もあったが、これも宇宙海賊の黄金期を再興するためさ。お前も俺の野望に便乗しないか? 宇宙移民が始まった数百年前、警察は宇宙海賊を恐れていた。その時代を復活させたいんだよ」
「どこと取引をしているかは知らないんですが、お姫さんは返してもらいますよ。高校中退されているんかは知らないんですがね。火遊びを大きくすると、大火事になりますよ」
金河は長身金箔鉄棒を振るって総隊長を即座に昏倒させようとした。総隊長は片腕にトンファーを装備していてそれを防ぐ。そしてこちらの方に迫撃を仕掛けてくる。金河は師匠から教わった武術の先読みの仕方で総隊長の動きを予測するも把握できない。即座に長い得物でトンファーの攻撃を受け止めた。総隊長は身構えていた。それは行き当たりばったりのような喧嘩ではなくて明らかに流派を視覚で見て感じ取れた。
「……海賊船上功夫……」
〓〓素材提供元:背景写真は 猫山八郎様
総隊長は家畜の群れを追う狼のようにトンファーを繰り出してきた。それを金河は棒術で防ぎつつ、反撃の機会をうかがう。しかし総隊長のトンファーは中々隙を見せない。
「俺は武蔵の祖父を師に仰いでいる。200人以上の高校生や中坊を舎弟につけようと思ったらそれだけの実力が伴うってわけよ」
金河はトンファーの猛打を受けつつ、なんとか一撃を浴びせようとする。しかしトンファーの攻撃速度がそれを上回る。腹部に打撃を直撃してしまい金河は後方へ転ぶ。
「金河くん!!! 僕も行くよ!!!」
「お前は疑似餌が相手してやるよ!!!」
シリウスが助太刀に参戦しようとしたら総隊長は口笛を吹く。すると、別の部屋から肉食恐竜の姿をした疑似餌が数体出現した。完全に使役されている疑似餌たちはシリウス目掛けて突進してくる。シリウスも多勢に無勢で疑似餌たちと戦うので精一杯だ。
「ミーは毎年、島内の海賊船上功夫大会少年の部で出場していた。もし出場したら優勝間違いなしといわれる少年格闘家がいると聞いたが……あんたですか……。その実力は勿体ない」
激痛を感じても衝撃を体内でなんとか散らして骨折を防いだ金河は再度、棒術で殴り掛かる。しかし総隊長は即応して防がれて反撃をくらう。側面の壁にまで殴り飛ばされて衝突する。
「海賊船上功夫はよ。宇宙海賊同士の死闘でこそ、その真価を発揮するんだ。ルールを設けたお遊戯程度で腐り果てていいもんじゃないからな」
吐血してしまうも金河は口元を手で拭い去り、笑顔になっている。自分の実力を上げるにはより強者と激闘することである。
「やっと技を……繰り出せる相手と出会ったよ♪」
金河は笑いながら長身金箔鉄棒で身構える。総隊長は金河の動きに異変を感じた。
➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡
武蔵はケンテと互角の実力だと思っていた。同じ祖父が悪名を宇宙で轟かせた宇宙海賊であり、その孫である。幼少期より海賊船上功夫の体術を教わってきた。
「足槍!!!」
ケンテは足の指を閉じて尖らせて武蔵の急所を突いてくる。脇腹にその蹴りが食らいつく。衝撃がその脇腹を一瞬陥没させる。武蔵はあまりの激痛に嘔吐して崩れ落ちる。
「拳を蹴りに……。蹴りを拳に……」
それが祖父、ロウスイ・パンチャー直伝の体術の極意である。両手を手刀と握り拳と交互に繰り返す。武蔵は身構えながら連続でパンチを数発繰り出す。速度でも互角なはずだ。修練をさぼっていはない。
「手払い三日月!!!」
両腕を回しながら武蔵の腹部と腕部を殴りこむ。速度が互角であるが、明らかに武蔵の攻撃を受け流して狙い目を確実に仕留める。背刀が頬を空襲する。武蔵は転倒する。
「これを食らって卒倒しないのはそれだけ鍛えてきてるってこったな♪ 武蔵くんよ♪」
「何故だ!!! お前は去年の大会の少年の部でその技を披露していなかったぞ!!」
ロウスイはスポーツ用の修行と死闘用の修行の両面をケンテと金河に体得させた。武蔵はあくまでアスリートとしての修行をしただけであり、海賊船上功夫の基礎体力は互角であるが、体術の技術力の差はケンテが上位であった。
武蔵は殺意をたぎらせて跳躍しながら回し蹴りを放つ。
「足鉄槌」
ケンテは足を振り上げて踵を振り下ろす。そこの軌道の先には武蔵の頬がある。武蔵の肉体が頑丈であると知り、鉄槌のような威力を武蔵に浴びせた。武蔵は側面に突っ伏す。常人ならば卒倒するが、脳震盪で武蔵は立ち上がることができない。完敗であった。武蔵は泣き出した。
「そんなぁああああ!!!!! 俺は半グレ組織「海賊連合」の次期総隊長なんだぞ!!!! うわぁああああん!!!!」
何とか感覚が復活して武蔵は立ち上がれたが、これ以上、喧嘩を続けてもケンテには勝てないと判断して階段を駆け下りていった。その後ろ姿を見ながらケンテは残念そうに呟く。
「武蔵……。お前も死闘用の修行をすれば、ワイと互角に渡り合える実力があるんやで……」
ケンテは階段を駆け上がり、最上階を目指す。その途中、金河とシリウスたちによって峰打ちされた暴走族や不良たちが失神しながら倒れている。武蔵が海賊船上功夫のスポーツ用体術を体得しているならば、半グレ組織「海賊連合」の総隊長も同様の可能性がある。階段を駆け上がり最上階のフロアに達した時だった。目の前を肉食恐竜姿の疑似餌の群れと乱闘しているシリウスの姿があった。疑似餌の多さに苦戦しているようだ。ケンテは即座に加勢して疑似餌の頭数を減らしていく。
「シリウス。金河は?」
「……そこ……」
シリウスが指さす方向、そこには微笑みながら棒術の構えをとる金河の姿があった。明らかにそれはケンテと同様の死闘用の武術の構えである。
「避雷芯棒 1合目!!!」
金河は愛用の長柄を突き出す。それに総隊長はトンファーで叩き落そうとするが、針で縫うようにその攻撃を避けながら総隊長の胸部に直撃する。総隊長は棒術に突き飛ばされる。数メートルほど飛ばされて独房の鉄柵に衝突する。
「ミーの棒術は山に例えると、頂上を目指すことにお師さんに近づくんだ。やっとこれを食らっても死なない相手に会えたよ♪」
金河は再度、同じ技を繰り出す。突き出した棒の先端が総隊長の胸部を補足しようとしたが、即刻、トンファーがそれを防ぐ。
「なめんじゃないぞ!!! デスマッチは俺もできるぞ!!! 武蔵は可愛いゆえにお師さんはあいつに教えなかった!!! 蟷螂!!!」
総隊長はトンファーで異様な動きで攻めてくる。金河は長柄でそれを防ぐ。
「やっぱりあんたは強い♪ いくよ♪」
死闘用の修行を身につけた両者は長柄とトンファーで打ちあう。お互い急所を狙うも弾き返される。
「お前……すごいな……」
「先輩♪ あんたこそ凄いよ♪ ミーとケンテの動きに追走できるなんてこの島でも数える程度でしかいないよ♪」
しかし総隊長は焦っていた。死闘用の技は身につけたとはいえ、それに比例した体力を養っていない。つまり息切れは早い。長期戦になれば、間違いなく金河の勝ちである。金河と総隊長は攻撃が拮抗しているも金河は持久力に余裕があるようだ。
自身の体力に限界を感じた時、微笑を浮かべる金河は飛翔しながら棒術で構え。
「避雷芯棒 2合目!!!」
長身金箔鉄棒の突撃が総隊長の頭部に直撃する。その攻撃の威力を体内で分散することができず、全てを受けてしまう。総隊長はそのまま後ろから倒れて気絶した。金河は着地すると、愛用の長柄を振り回しながら片手で合掌を行う。
「私闘を交えていただき、感謝します……」
金河にとって初めて死闘用の武闘ができて気持ちが高揚してきた。すると背後から後頭部にどこからかパンチが飛んできた。しかしそれは威力は極めて軽かった。
「ワイも他人のことは言えないが何を楽しんでいるんや!! お姫さんの安全を確かめないといけんやろが!!」
「ゴメンよ。ケンテ……。テレナさん?」
少し頭が冷えた金河はテレナの安全を確かめると、テレナは既にシリウスによって救出されていた。衣服に乱れた個所がないことから乱暴なことはされていないようだ。
「テレナさん。この軍服を着た少年から言われたことは本当ですか?」
「シリウス君てお胸があるぞよ? 余より大きい……。あ、うん、そうだったんじゃ。その軍服の団体と余を材料にして交渉しようとしていたんじゃ」
シリウスはそれを聞くと、ズボンのポケットからUbiquitous(スマートフォン相当)を取り出してメモアプリを起動させてテレナから聴取をとる。
シリウスがテレナと同じ性別であると明らかにされてテレナは驚愕した。しかも発育がシリウスの方が抜群にリードしているのだ。テレナにいたっては中学生らしい成長過程である。警察機構型人類諸国連合の未成年助っ人交番であることも聞いた。
「シリウス君――じゃなくてシリウスさん。半グレ組織「海賊連合」の人らを警察に突き出すのはやめてあげるんじゃ!!」
「1国の要人を危険に晒したんですから不可能です……」
シリウスは何度か懇願する。自分が拉致された被害者だというのにだ。シリウスは腕を組んで深く考えてから回答する。
「じゃーーこの総隊長だけを逮捕します。当局はGEVILについて数百年から用心しています……。あとは当局からの厳重注意つまり長時間の説教で解決しましょう」
折衷案を出したのでテレナはシリウスに感謝をした。未成年の彼らが前科者になり、将来、社会で暗く生きていくことを回避したいためらしい。
シリウスは半グレ組織の少年たちを全員逮捕しないまでも補導はするようである。地元警察に連絡をとった。
金河はここから立ち去るべくきびすを返したときだった。何かを踏んでしまう。それはテレビのリモコンだった。電源のスイッチが誤って入ってしまい。同時に再生ボタンのスイッチも誤作動してしまう。
近くに録画用レコーダ内臓式のテレビモニターがあった。そこに電源が起動して映像が投影される。
それは毎週定例の曜日に放送される銀河系規模キー曲の都市伝説のクイズ番組だった。しかもその日のクイズで一番成績の良かった回答出演者へのインタビューシーンである。
優勝したのは緑色の逆立たせた頭髪の中年男性でかなりの巨漢である。そこに司会の男性がその巨漢の優勝者に感想を聞いていた。司会の男性は銀河系の聴衆ならば誰もが知っている有名人だった。顔を真っ白に染めて花を赤くしたピエロのメイクをし、カラースーツを着こなしている。
「銀河系最高のエンターテイナー、ジョーカー・ワイルドカードダス!!!」
「兎耳娘大走査線で、銀河系規模の大量殺戮犯罪の黒幕だった奴をば!!!」
その司会は去年まで老若男女、どの世代からも絶大な人気と支持を得ていた。そして銀河系経済の命運を握るとされた地方選挙に出馬して見事当選した。地方政治家としても敏腕を振るったが、その直後、連続大量虐殺事件の黒幕と判明し自殺したと発表された。それは銀河系規模の聴衆がショックを受けるというセンセーショナルとなった。それまでに録画された映像が今、テレビに映っている。
「アドベント・チャップリングさん。ご優勝をおめでとうございまう。UFO、UMAから幽霊、宇宙考古学まで何でも博識でいらっしゃいますね♪ よく当クイズ番組に出演されますが、本業の……次元骨董屋はどうですか?」
「ハンハンハーーーン♪ 好調だお♪ オイラは元鉄道王ケンビリー・ツーテンツーが隠したとされる埋蔵金の預金口座――百萬通帳を引き当てることダオね」
〓〓素材提供元:背景はDragonOne様
「次元骨董屋? 百萬通帳?」
金河にはそれは初めて聞いた言葉だった。
優勝者のアドベントのコメントを聞いた司会のピエロは両目を丸くして驚いた。それは他の出演者も同様である。
「私は芸能活動を続けながらも、先代鉄道王から……王座――株式会社イオンスラスターコーポレーションの社長のポジションを勝ち取りました。地方選挙で地方行政の首脳職に当選することが、社長のポジションの必須条件でしてね。それからアドベントさんのおっしゃる百萬通帳について調査しましたが、その痕跡は全くなかったんですよ」
クイズ番組の司会者であるジョーカー・ワイルドカードダスは、「鉄道王」という称号を先代の鉄道王ケンビリー・ツーテンツーから簒奪したのだ。そしてアドベントの目的である「百萬通帳」についても入念に社内調査を敢行した。
「徳川家が存続してるダオ。徳川埋蔵金の情報源が途絶えることはないダオ。それと同様に百萬通帳も情報源が途絶えてないダオ。専門家曰く百萬通帳はコンマ秒単位で振り込まれている。その預金を管理する銀行さえ不明。だが、その預貯金は人類史初期より存在し幾度となく文明を再興した預金口座と口伝で継承されているダオ。オイラはこの銀河系……そして人類初のエイリアンが住む隣の銀河系を冒険してでも百萬通帳を引き当てるんダオ♪」
アドベントは高々と宣言していた。金河はアドベントに非常に興味と魅力を感じていた。そのクイズ番組が収録した日付が映像に表記されていた。その翌週にこのクイズ番組の司会、ジョーカー・ワイルドカードダスは一連の未解決大量殺戮事件の主犯格だと判明して自殺した。クイズ番組はその主犯格との関係を断ち切るために即座に終了した。
そこで録画されていた映像は終了する。
「ケンテ……次元骨董屋、ていうのは知っているか?」
「次元骨董屋?……爺さんから聞いたあるをば。 ワープ航法が発達していく中、金持ち、芸能人などが銀河系の各地に遺品や財産などを保管した、て話や。中には自然的に発生した小規模の異空間にしか発生しない資源や鉱物があるとかをば。それらをワイの爺さんたちが若い――宇宙海賊だった時に探索しに行ったりしたらしい。百萬通帳なんて宇宙移民のときにできた都市伝説やで」
その都市伝説に対して金河は非常に興味が沸いたのだ。さらにこの最上階フロアを見渡すと、百萬通帳に関する書籍や雑誌がたくさん散らばっている。どうやら総隊長が百萬通帳に非常に興味を持っていたようだ。ケンテから教えてもらったのをヒントに金河は推測する。総隊長の目的は宇宙海賊の黄金期を復活させて百萬通帳を探り当てるかもしれないと。
裏棟の下の階から複数の足音が聞こえてきた。恐らくこの水力発電所駐在の警官隊だろう。シリウスが通報したのだ。金河たちは警察の聴取を受けることにした。
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市街地にあるどこかのスラム街。そこに武蔵は泣きながら逃げてきた。自分の実力にはかなり自信があった。要注意すれば、ケンテに勝てると思っていた。勝てなかったのだ。悔しくて仕方がない。ケンテに再挑戦したい。兄貴分の総隊長は恐らく金河たちに倒されているだろう。ケンテがあんなに強いのならば、いくら自分より実力が上の兄貴分といっても勝てはしないだろう。
「む、武蔵くん……。無事だったんだな……」
リーゼント頭の悪友とモヒカンの悪友が近づいてくる。武蔵と同じクラスメイトだ。万が一敗北したときにはここで落ち合うことになっていた。
「半グレ組織「海賊連合」は完敗した……。総隊長の野望を実現するのは無理だったな……」
警察が急行して仲間たちは全員連行されただろう。格好悪いことをしたら今後、入会する後輩たちはいないだろう。武蔵はあきらめていると、リーゼントの悪友が愛想笑いしながら話しかけてきた。
「武蔵くん。グッドニュースだよ♪ 総隊長に疑似餌など支援してくれた人が武蔵くんに用事があるんだってさ♪」
悪友は誰かを呼ぶ。すると、スラム街の陰から人影が見えてきた。日陰が濃くて姿形は鮮明ではないが、恐らく男性だろう。しかもかなりの長身である。
「海賊船上功夫の殺人技を体得していたから……期待していたんだシャア……。残念だったシャア……」
モヒカンの悪友が説明する。テレナ姫誘拐犯行計画を企てた黒幕であったらしい。
「お前のその姿……黒ガス型ナノマシン集合体無人機か!!!」
それは黒いガスで構成された男性を模したロボットであった。黒いガスに見えるが、その1個1個が気体サイズのナノマシンである。つまり黒幕本人ではない。黒幕本人がどこからか遠隔で操っているのだ。
「何だよ!!! 卑怯者!!! 俺は卑怯な奴と取引はしないぞ!!!」
「海賊連合を半壊させた同級生に仕返しをしたいんだろシャアン?」
兄貴分の野望はそれほど興味がなかったが、ケンテには復讐をしたかった。
「そうだ!!! だが、俺のお爺さんは俺が可愛いから殺人技は教えないだろう……」
「当局に協力するなら……。海賊船上功夫の殺人技を伝授してくれるプロを紹介してやるシャア。どうだシャア?」
それは武蔵にとって破格の条件であった。ケンテに負けた汚名を返上したいのだ。
武蔵は承知した上で悪魔の囁きに乗ってみることにした。
「いいぜ!!! お前の甘言にでも便乗してやるさ!!!」
武蔵そして2名の悪友はこの黒幕の犯行に協力したのであった。翌日、武蔵の両親と祖父は武蔵の捜索願を出したのであった。武蔵の悪友2名も含めてである。捜索願を受けた警察は逮捕されるのが怖くなって家出したと判断して捜索するのであった。
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海賊共和国の海に面した宇宙港がそこにあった。時間帯は夜である。
そこの建物内にある改札口あたりの待合室で金河、ケンテ、シリウスたちが待っている。3人は談笑していると、遠くからテレナの声が聞こえてきた。声の方向へ振り向くと、テレナそして道着姿の老人男性とマントつきの制服姿のブロンドショートカットでハチマキを巻いている男性が近づいてきた。制服姿の男性は帯剣をしている。さらにその3名の背後を10人近くの制服姿の男女が随行している。
〓〓素材提供元:左の男性は「ゆうひな」様、背景はKazutrip様
道着姿の老人男性はケンテと金河と同居する自宅の持ち主であり、海賊船上功夫の達人、ロウスイ・パンチャー。その隣に佇むブロンドショートカットの制服姿の男性は初対面やいなやお辞儀をしてきた。
「貴殿らがテレナ親王殿下を救ってくだされたんでするね。お初にお目にかかりまする。当該は火星王国王政騎士団の丞相騎士を務めておりますマルタ・レイダーオシャンと申しまする。王権に代わりに当該がお礼を述べさせていただきます」
「え!!! 丞相騎士といったら日本国でいう内閣総理大臣じゃないですか!!! そんな高位な方がミーたちに頭を下げないでください」
「丞相騎士閣下。金河の言う通りですさかい。頭をお上げになされい」
「しかしロウスイ殿。当該と貴殿が地球、火星の交易について会談中に同伴された親王殿下が誘拐されたとなっては……当該……帰国後に丞相騎士の辞意を表明しようかと……」
「マルタ!!! それは撤回するんじゃ!!! 余が拉致されたのは余の自己責任じゃ。余の純潔が汚されたわけじゃないのじゃ。マルタは火星王国にとって必要不可欠な人財じゃ!! それは余と父上だけでなく臣民もそなたを高く評価して信頼しておるのじゃ」
「親王殿下……。ありがたき幸せ……このマルタ……感涙いたしまする……」
マルタは号泣しながら感激する。
ケンテは自分の祖父のあることに疑問を持ったのか問う。
「爺さん。火星と地球の交易の商談て……。あくまで爺さんはこの海賊共和国の行政機構――海賊条項裁判所の外交担当だろ? 火星との商談は地球の中央政府が行うはずをば……」
海賊共和国はあくまで地球圏内の地方国家である。地球そして太陽系の全権は、銀河系の全権を掌握している警察機構型人類諸国連合の役目である。
「警察機構型人類諸国連合の最高行政機関――警視幕僚監部の内政地球省から太陽系諸国通称の担当を一任されたんじゃよ」
警察機構型人類諸国連合は銀河系、地球、太陽系の全権を掌握している。恒星系連合地域諸国協力制度において太陽系の政治を統括する閣僚もいれば、地球の政治を統括する閣僚もいる。内政地球省とは地球圏内の国々を管理するための行政機関である。「恒星系国家」はこの恒星系連合地域諸国協力制度とは別で恒星系全域を1個の政府が統治している。人類が銀河系全土を開拓したことで国というあり方も多種様々なものとなった。
「お前らはあまり知らんと思うがな。太陽系諸国との交易はこの島国、海賊共和国で行う。そして恒星系連合、恒星系国家との交易はヨーロッパにある地球、銀河系の首都で商談が交わされるのじゃ」
ややこしいことを抜きにして簡略化すると、ケンテの祖父どうこうで地球の経済の行く末が決まるのである。ロウスイはこの島国の外相であり、地球政府の外相でもあるのだ。
「老師様との商談も纏まり、王権には良い報告ができまする。親王殿下。内政地球省は火星王国からかなりの鉱物を輸入してくれるそうです。そして地球からは純正天然資源の輸出を約束してれましたでする。地球以外の星々の環境は全て人造製ゆえに高品質ではありませんからね」
「良かったのじゃ♪ これで海賊共和国の新鮮な海産物が旅行せずとも食べれるわけじゃな♪ 余はうれしいぞ♪」
王政騎士団の職員がもう出航の時間だとマルタに耳打ちする。
「親王殿下。そろそろ内星海宇宙客船の出航の時間帯だそうでするぞ」
「騎士殿……承知した……。金河くん……ケンテくん……シリウスさん……。1週間という短い間だったけど、地球のことを色々と教えてくれてありがとうですじゃ♪」
テレナは個々に握手をしていく。嬉しくて涙を流している。それは金河、ケンテ、シリウスもだった。地球の隣国とはいえ、日頃、テレビ視聴やネットでは知りえない火星王国の話が聞けた。
テレナは手を振りながらマルタと同行している従者たちと一緒に宇宙港の改札口を通過していく。
それを見送りながら金河はロウスイに話しかけた。
「何じゃ?」
「お師匠様……。来週から夏休みに入ります……。ミー、ケンテと2人で……。夏休みの間だけ……次元骨董屋の名人、アドベント・チャップリングの外星海航行共有引揚げ船に参加しに行っていいですか?」
ロウスイはそれを予想していたのか溜息をついて額をおさえる。頭痛を感じたようだ。
「公立北海道航空宇宙研究所で働く刺叉ジャコビニツィナー博士夫妻より、君を預かっている身としては大反対じゃ。しかし……ジャコビニツィナー博士をよく説得したのう……。夫妻から夏休みだけという短期間だけなら許可をしようぞい」
昨晩、ロウスイに電話がかかってきた。金河の実の両親からだった。夏休みだけ宇宙という社会勉強をしたいとである。都市伝説で有名な貯蓄――百萬通帳を探したいからである。
ケンテと金河は大喜びだった。それを傍らに立つシリウスは冷ややかな視線で見る。
「………地球、月、火星を結ぶ人工衛星都市群の国家、四方人工衛星都市同盟にアドベントの事務所があるけど、乗船を許可されるかは決まったことがないんだよ……。しかも宇宙飛行士としての訓練も受けてないのに……能天気だよ……」
夏休みはこの島の浜辺で海水浴をするとシリウスは思っていた。女子中学生であることを告白したこともあり、自慢の水着姿を披露したかったのだが、その願いは断たれてしまった。
金河とケンテは世帯主の許しをもらったら早速、宇宙生活について独学を始めるのだった。
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〓〓素材提供元:背景の4個のスペースコロニーはkanimiso様
第3次世界大戦後終結後、人類は数百年間で銀河系全域を開拓し移民を完了させた。数百年間というのは様々な学者からみれば到底ありえないスパンである。
それは第3次世界大戦に幾つかの要因がある。第3次世界大戦の勃発は西暦1999年12月であった。全人類に敵対した在日外国人政治団体「京風帝国」が京都を世界の政治的中心地にするという偏った思想で乱世を引き起こした。
全人類を余裕で相手にできるくらいのオーバーテクノロジーをこの政治団体は手にしたのだ。大西洋の海底に古代人が開発したという純正のスペースコロニーの遺跡が発見された。それは廃墟ではなく、稼働中のスペースコロニーであった。そこからその政治団体は無尽蔵の兵力と無尽蔵の兵器を手にした。その国力は地球半分以上を占領し、尚且つ半年間という恐ろしいスピードで太陽系全域に軍事基地を無数に点在させた。のちにそのオーバーテクノロジーは多国籍軍が政治団体の裏切り者から譲渡してもらい、対等の軍事力を手にしてその政治団体「京風帝国」を壊滅に追い込んだ。
現在、地球を囲い込む4基のスペースコロニーがある。それらは地球の東西南北に存在する。そのスペースコロニーのモデルがなんと大西洋の海底で発見された古代人のスペースコロニー遺跡「竜宮城」を原型としている。
オーバーテクノロジーのかたまりである古代スペースコロニー遺跡「竜宮城」内部の文字、言語から全てが「日本国の公用語」であった。しかも古代から現代まで稼働中であるスペースコロニー遺跡には自動的にスペースコロニーを開発するAI建設機械があった。
それを使用して竜宮城の量産品を4品建設したのである。
太陽系という恒星系連合――地球諸星の1国――四方軌道都市同盟。
銀河系規模の連邦制統治機構――警察機構型人類諸国連合の国会、300国議会への参政権を持たない国である。この太陽系でこの銀河系規模の国会への参政権を持つのは地球のみである。
四方軌道都市同盟だけでなく、月面共同市場、火星王国も参政権がない。ある一定上の交易や政策に関しては参政権当事国である「地球」に頭を下げて頼み込むしかない。
四方軌道都市同盟の1基づのスペースコロニー「西型県」。
そこに1隻の宇宙客船がスペースコロニーの宇宙港に入港しようとしていた。
それを船窓から星海を眺めて興奮している2人の道着姿の男子中学生がいた。ケンテ・パンチャーと刺叉金河である。
「ケンテ!!! 古代人が建設したといわれるあのスペースコロニー遺跡「竜宮城」をそのまま再現したスペースコロニーだよ♪」
金河は船窓に張り付いて喜悦している。ケンテはスペースコロニーに関するパンフレットを読む。
「古代遺跡の自律判断型重機に任せたら瞬く間に再現したんやて。これにより数百年数千年にわたるとされたスペースコロニー研究開発の年月はとてつもなく簡略化されたらしいをば……。ほんまにSFみたいな話やな……」
「水道や電気、てミーたちが生まれて使えるのは当然だけど、それまでの積み重ねた歴史ってある。スペースコロニーが便利に開発できるようになったのはヒントや発見ではなくて既に既製品という答えがあったから数百年間で移民が完了したんだよ」
「なんと竜宮城の遺跡には星間ワープ航法のシステムだけでなく銀河系全域を記録された地図も存在したんやて……。竜宮城遺跡、て本間に恐ろしいオーバーテクノロジーの塊やな……」
ロウスイと両親には約束した。夏休みの間だけ、このトセナクで事務所を構えるアドベントに交渉して百萬通帳の次元骨董屋に参加させてもらうことだ。
船内音声が放送される。
「もうすぐ入港が完了します。関所駐在の警官隊の方々が乗り口に待機してますので検問を受けてください」
数分後、宇宙客船を複数のドック専用マニピュレータが掴んで船体を固定する。蛇のような機械が宇宙客船の扉に吸い付く。それは宇宙客船と宇宙港を直結する移動式の通路である。添乗員に案内されて乗客たちは宇宙客船から下船する。扉の方には関所駐在の警官隊と四方人工衛星都市同盟の関所職員員が待ち受けている。
警官隊が同伴すうのは万が一犯罪者の国内への侵入を防ぐためと乗客と関所職員を守るためである。
「こんにちわ。四方軌道都市同盟の西型県へようこそ。私は県庁関所職員です。我が国への目的は?」
「就労ですさかい」
「就労です」
観光ならば関所職員は納得したが、さすがに未成年で就労とは少し怪訝に思い、パスポートの提示を要請する。応じないと、警官隊に補導されるので2人はパスポートを提示する。それをUbiquitous(スマートフォン相当)の特殊コード読み取りアプリで照合していく。問題ないと照合結果が画面に表示される。
「内政地球省の認証の確認がとれました。海外就労で分からないことがあれば、このスペースコロニー各地にある労働基準監督署や職業安定所にご相談してください。県庁舎には太陽系諸国の大使領事テナントがあります。ちなみに太陽系外――外星海の恒星系国家、惑星国家に関することは警察機構型人類諸国連合の支部署をお訪ねください」
太陽系以外の恒星系国家、惑星国家で暮らす者たちは太陽系諸国に関しては「地球」以外、興味がない。軍部を担う「機動隊」の5大総司令部の1拠点が火星王国にあるから知られているくらいだ。四方軌道都市同盟のような幾つかのスペースコロニー群国家もしくはスペースコロニー群地方自治体は銀河系各地に数えきれないくらい点在する。
入国検問を終えて2人は無事にスペースコロニー「西型県」へと入る。宇宙港を通過すると、そこは総人口155万人が暮らしている都道府県規模の面積と巨大さを誇る人工衛星内部の都心であった。
ジオラマのような街並み。無数のビルが乱立して道路を自動車が行き交っている。県庁舎に隣接する人工衛星内居住環境管制基地から人造重力が人工衛星都市内部に展開されて宇宙遊泳ができないようになっている。つまり地球内と同等の重力環境となっている。それは宇宙港からスペースコロニー内部の市街地へと移動した途端、その違和感に気付いた。
「すごいやん!!! 空が天井やん!!! これが古代人のスペースコロニー遺跡をそのまま量産したんやな……」
「竜宮城文明、て宇宙人の文明なんじゃないのかな? さすがに発展しすぎでしょ……」
2人がまず初めての宇宙外遊に来てしたかったのは、宇宙食つまりグルメである。
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Ubiquitousを操作して宇宙港付近の商店街を探す。商店街を見つけて駆け足でそこへ向かう。幾つかその専門の露店が並んでいる。その中から安いお店を探して2人は購入する。
「おじさーーん♪ ランデブーケバブをください!!!」
「トルコのコックさんが宇宙に広めたスペースコロニーとえいば、ランラン♪ ランラン♪ ランデブーケバブー♪」
露店の店主は2人から硬貨を幾つか受け取ってから調理を始める。肉、魚、野菜等を味付けした細切れ肉を重ねて塊にし、回転させながら焼いて火が通った表面から少しずつ削ぎ取り、それらを円形で内部が空洞のピタパンを半分に切って袋状にしたものに突っ込む。それがランデブーケバブである。それは惑星で暮らさない住民定番の民族料理である。
〓〓素材提供元:背景はmir様
ランデブーケバブを購入後、2人はそれを頬張る。そして近くの自販機で購入したコーラのペットボトルで流し込む。
「うまい♪ これをまず食べたかったんだよ♪ やはり違うよね♪」
「スペースコロニーに住む人がお昼に食べる定番をば♪ ドラマやアニメで何度もランデブーケバブの食べるシーンを見てさ。ワイも食べたかったんだおば♪」
残ったケバブの断面を2人は齧って削いでいく。念願のスペースコロニー名物が食べれて2人は大満足である。
完食は商店街を通り抜けたと同時であった。残ったコーラを飲み干すと、Ubiquitousの地図アプリを起動させて目的地を探す。
「アドベントさんの事務所って第6方面星間造船区ところだね……。距離的にいえば……日本国の長野県の最南端から最北端くらいの距離か……。長いな……。人単位のワープ航法の駅は火星と地球にしかないらかね……。バスターミナルに行ってバスに乗りますか……」
ケンテと金河はバスターミナルを目指す。バスターミナルはこのスペースコロニー各地区へと向かう乗り場がたくさんある。金河たちがいるのは県庁所在地である。県都と呼ばれている地方中央行政区である。日本国の東京都のような地方政治体制である。市町村はけして皆無ではないが、県内は大半が「地区」という行政区分で区分けされている。ケンテと金河は切符を購入すると、バスに乗って目的地を目指す。
バスはスペースコロニー内に設けられた高速道路の乗り口に入り、高速道路を走る。高架の車道を走りながら眼下の街並みの風景を眺める。
地球の街並みとさして大差はない。155万人が警察に保障された安全な生活を謳歌して日常に没する。それがいいのであろう。去年まで銀河系各地では宗教や政変を目指すテロリストたちが内紛を頻発させていた。警察機構型人類諸国連合は直ちに軍隊相当の武装鎮圧機関――機動隊に出動を命じて掃討させる。この銀河系の中でこの太陽系諸国――地球諸星は一番平凡なところなのだろう。去年、未解決連続殺戮事件を解決した事変――兎耳娘大走査線。あれで銀河系における犯罪組織ネットワークは完全に壊滅した。テロを起こすような輩はいないだろう。
スペースコロニー内の空に設置された高架の高速道路を走るバス。運転手は前方に何か違和感を感じた。幾つか煙がのぼっている。よく見てみると、横転した車両がたくさんある。そして破砕された車両もたくさん発見した。運転手は即座に急ブレーキを踏む。
そこには大型車両が縦に2台分重なったような巨躯がそこにいた。
「な!!! 何だありゃああああ!!!!」
全長15メートル以上はある巨躯。全身に重火器や砲台を装備している。片腕に天使の彫像を装備している。頭部も砲台となっている。それはまるで2足歩行の戦車のようだった。
〓〓素材提供元:背景はうさべる様
「そこのバスをよ停車せよ!!! 我は影加賀芳志だ!!! そのバスに公立北海道航空宇宙研究所のご子息、刺叉金河が乗車しているはずだ!!! 引き渡せ!!!」
その巨躯は片腕に装着されている巨躯機型マシンガンの銃口を向けてくる。
巨躯を操る男性の名前を知った乗客たちは悲鳴を上げる。金河とケンテはその名前は知らない。しかしあの機械の巨躯について知っている。
「脱獄囚だ!!! 数日前、刑務所から脱獄した連続殺人犯!!!」
「有人電脳垂直離着陸機!!! 頭文字のElectricは「電動」というのが主な意味だが、現代において「有人型電脳」という意味も兼ねる。あれは……大口注文で量産された……【兵力の天使】!!!」
とにかく脱獄囚の目的は自分である。金河はケンテと一緒にバスから急いで下車して有人電脳垂直離着陸機の足元へと駆け足で近づく。
「影加賀芳志!!!! ミーが、刺叉金河だ!!! 何の用だ!!!」
「クライアント様がお前を始末するか人質にとるか依頼をしたんだ!!! 俺はこの有人電脳垂直離着陸機を無償でくれたんだが、搭乗した途端、コックピットから脱出できなくなった!!! 無事に脱出するにはお前を捕まえるか殺すかだ!!! 死にたくなければ大人しくこの巨人に手で掴まれな!!!」
「誰が捕まるか!!! 行くよ、ケンテ!!!」
「合点やで!!!」
ケンテと金河は高速道路を走りながらマンホールを発見する。ケンテはマンホールの蓋を開けると、そこから地上へと通じている。2人は急いでマンホールの穴へと逃げ込む。それは高架型の高速道路から地上の地下水道へと通じている長い配管だった。高速道路を支える支柱でもあり、金河とケンテは配管を伝って地下水道へと降りる。
一方高速道路を陣取る有人電脳垂直離着陸機の【兵力の天使】を操る影加賀芳志は必死に操縦席の端末を操作しながら2人の行先を調べる。
「この第5678下水道は第6星間造船地区に通じているのか……。それ以外に地上へと脱出できる梯子はないと……。いいだろう。第6星間造船地区で待ち伏せてやる!!! あと、残念だが……そこは違法に飼育された野良の疑似餌がたくさん生息しているぞ♪」
影加賀芳志は【兵力の天使】の低空飛行バックパックを起動させて空を飛びながら彼らの目的地に先回りしようとしていた。その有人電脳垂直離着陸機からかなり遠く離れた天体へと検証データが送信されていることに脱獄囚は気づいていなかった。
スペースコロニー各所に張り巡らされている地下水道。その中でどの通路とも繋がらず1本のみの水路があった。そこ側道を高速道路から降りてきた2人の少年が走っている。金河とケンテだ。
「しかし金河を狙うとは誰が背後にいるんだろうな?」
「半グレ組織「海賊連合」のスポンサーかもしれないね。けど、海賊条項裁判所が例のスポンサーに問いただしたが、スポンサーさんは関与を否定しているみたいだよ」
総隊長は警察に逮捕されて取り調べを受けてスポンサーにそそのかされたと主張した。しかしスポンサーサイドからは犯人の自作自演だと国際弁護士を通じて否定してきた。
地下水道は少し電灯が天井に配置されているだけでほぼ真っ黒である。ケンテは前方に異変を感じた。
飛び跳ねながら接近してくる生物を数体、発見する。
「オロン♪ オロン♪」
それは見た目が蛙であった。しかも大きさはヒキガエルより大きい犬程度はある。盾と手斧を装備している。
〓〓素材提供元:モンスターはHI-TIME様、背景はEYE30様
2足方向で直立している。恐らく疑似餌を口にして害獣転移株を手にしたのだろう。害獣避け用に作られた毒物が購入者により不法投棄された。特に地下水道ならばバレないだろう悪知恵を働く者たちが続出し、その末路が逆に害獣化した疑似餌である。食った生物や取り込んだ植物を毒物自身の衣類と化すのだ。
蛙の疑似餌たちは手斧を振り上げてた。ケンテは得意の先陣をかって出る。散弾銃のような威力を持つパンチを繰り出す。それを蛙の疑似餌が盾を全面に出して防ぐ。見事、それは塞がれる。笑いながら蛙の疑似餌は真横から蹴りが飛来してきたのに気づかず、脇腹をえぐる。嘔吐した疑似餌は頭部にケンテの鉄拳が直撃して四散する。
即死した同胞を気にせず、蛙の疑似餌たちが殺到してくる。金河は黄金の長柄を振り回しながら後衛から前衛のケンテを補佐する。長柄の突撃で蛙の胴体を粉砕する。盾で身構えた蛙の疑似餌は難を逃れるも直後にケンテの拳がきちんと絶命させてくれる。
蛙の疑似餌たちの中から1体が手斧を投げてきた。ケンテはそれを動体視力で追いながらつかみ取り、投げ返す。ブーメランのように帰ってきた手斧が投手に直撃する。その投手の疑似餌は胴体を横一文字に切断されて朽ち果てる。
「オロォオオオオ!!!!」
ケンテと金河の後方に水路から2体の蛙の疑似餌が上陸してくる。手斧を振りかざし奇襲をかける。金河はそれに油断をして気づいて避けようとしたが切り傷を背中に負う。反撃に棒術の刺突を連打させてその後方奇襲の蛙の疑似餌たちを木っ端微塵に砕く。
「金河!! 大丈夫をばか!!」
「ノープロブレム……止血はするさ」
応急処置するためにはここにいる蛙の疑似餌たちを掃討するしかない。
「避雷芯棒 1合目!!!」
本格的に海賊船上功夫の「殺人技」を使い、蛙の疑似餌たちを次々と頭部のみを狙って始末していく。それはケンテも同様で殺人に特化した体術で蛙の疑似餌の息の根を止めていく。
疑似餌たちの増援が来ないことを確かめてから金河は背中の切り傷を持参している水筒の綺麗な清涼水で洗う。解毒絆創膏を貼り処置を終える。
地下水道を進んでいく。
スペースコロニーは西暦1999年、大西洋の海底で発見された古代のスペースコロニー「竜宮城」を原型を解読して生み出された基幹技術から建設されたものだ。スペースコロニー自体の設計デザインは自動車のハンドルをモデルとされている。そこに鍋の蓋状態のソーラーパネル。それで太陽から陽光を浴びて集光する。それでソーラー発電を起こしスペースコロニーの内部全体をオール電化する。コロニー内で発生する産業廃棄物をゴミ処理場で各成分に分解する。分解された各成分は水、食料、鉱物などに再利用される。
「スペースコロニーに住む人は凄いよね。ミーたちが住む地球。そしてその地球とほぼ同質の環境へと改造された惑星と違ってスペースコロニーは災害や戦災には弱いからね。深手を負ったらスペースコロニーの住民は大量に死亡してしまう……」
「太陽系を纏める恒星系連合――地球諸星のスペースコロニーは星海の情報が網羅されているからそういう脅威には耐性があるをば。せやかてと言っても他の恒星系のスペースコロニーは星海の情報が不足していて戦災はともかく災害には巻き込まれてそれなりに人が亡くなっているらしいんやて」
人類の1人ひとりが銀河系に住む住民の日常を細かく把握しているわけではない。辺境惑星の大陸や島国の各所で発生した大震災は地球や銀河矮小化惑星に入ってくるわけではない。
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