108人が本棚に入れています
本棚に追加
第一章:この関係をなんと呼ぶのか私は知らない。
濡れた髪を拭きながら、バスローブを羽織った先輩が近づいてきた。
先にシャワーを浴びた私は既に着替え先輩が出てくるのを待っていた。
いつも通りだ。
「それでは先輩、帰りますね」
「ん」
私は玄関を出て、バス停まで歩く。
私たちの、この関係は誰も知らない。
私と先輩の、この関係をなんと呼ぶのか私は知らない。
どうしてこうなったのか、今までの事を思い出しながら歩いた。
先輩を初めて認識したのは、大学で入った文芸サークルだ。
私は昔から本を読むのが好きで、高校の時からは自分でも物語を書き始めていた。小説と言うには恥ずかしいくらいのもので、単なる物語だ。最近はネット上にアップしているが読者は少数だ。それでも読んでくれる人がいて少しでも反応があれば嬉しくなる。
もっといろんな文章を読んで、もっと自分でも良い文章を書けるようになりたいと思ってサークルに入った。
そのサークルは、それほど大所帯ではなかった。毎週金曜日に集まって、その中の数人の書いた小説を読み、感想を言い合っていた。
私は地方出身の、どこにでもいる目立たない学生だ。
それに比べて先輩は、とっても目立つ人ーー外見も行動もーーで、学内でも有名人だった。
顔は綺麗、スタイルも良い、無口であまり笑わないが陰があってそれがかえって魅力となっていて、モテる。曰く、恋人が途絶えた事がない、らしい。
そう、私とは住む世界がまるで違う人だった。
最初のコメントを投稿しよう!