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星
それから更に八年が流れました。
湖畔は凍りつき、空からは白羽が舞う様に白い雪が降っています。
枯れ木を抱えながら重い空を見つめているのは十三歳になったアガ王子でした。ですがそこにはテネリ王妃もシュネの姿も見当たりません。
重い夜空をかき分けて出て来た星達がテネリ王妃の眼差しの様に王子を優しく照らしているだけです。
「この世は貴方を傷つける者ばかりでしょう。でも見た目では大切な物は見えません。貴方は美しい…自信をお持ちなさい、そしてもう悲しみの涙を流すのは終わりにしなさい。涙は嬉しい時だけ流すのです」
テネリ王妃はそう言い残すと、花が咲く季節の暖かく柔らかな風に乗り空へ旅立っていたからです。
元々体の弱いテネリ王妃でしたので無理な生活がたたったのでしょう。
泣き崩れるシュネにアガ王子は持っている全てのお金を渡しました。
「シュネ、今までありがとう。きっと母様は立派な家のお嬢様だったんでしょ?僕を産んだばかりにこんな苦労を背負ってしまったんだよね。シュネまで苦労をかけてごめんね。これからはどうか自分の為に生きて」
「そんな、シュネはアガ様を大事な弟の様に思っておりました」
「僕にとってもシュネは大事なお姉さんだよ。だからこそ幸せになって欲しいんだ」
シュネはアガ王子の強い説得により王子の元を離れる事になりました。
家を出る時シュネは振り返りアガ王子の肩を掴みました。
シュネはテネリ王妃に決して真実を王子には伝えてはいけないと言われていました。
しかし、これから一人になるアガ王子には伝えた方がいいと思ったのです。
「アガ様実は…」
そう言いかけて唇を噛み締めました。
アガ王子の美しいルビーの様な瞳には溢れそうな涙が溜まっているのを見たからです。テネリ王妃との約束を守ろうと必死に耐えるアガ王子の姿に真実を語るのをやめ、何も言わずそのまま強く抱きしめました。
それから、アガ王子は独りぼっちになりました。
でも決して寂しくはありませんでした。アガ王子には友達がいたからです。
林に住んでいる動物や植物も湖に住む魚も風や太陽、月、星も全て王子と仲良くしてくれました。
何故か人間だけが言葉や暴力で王子を傷つけるのです。
だから王子は人に会わない様にしました。
それは決して傷付きたくないからではありません。優しい筈の人間を自分の姿のせいで横暴な者に変えてしまうのが辛かったからでした。
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