8人が本棚に入れています
本棚に追加
「王妃よ、その王子は普通ではない。残念だが何かの呪いか病に侵されている。心苦しいが王子は亡き者とした方がよい」
王はテネリ王妃に優しく諭す様に言いました。
イエティス王は脳裏にくっ付いている占い師の言葉を力強く剥がしたのです。
王はどうしてもアガ王子を受け入れる事が出来ませんでした。そして未来は自分が変えれば良いと思ったのです。今迄も自分の知恵や力で乗り越えた事は沢山ありました。なので占いの未来を変えられると自分に自信を植え込んだのです。
「王様、この子は呪われてもいなければ、病気でもございません。私が一番分かっております。私達とこの子は何も違いませんよ」
王子を見つめるテネリ王妃の眼差しは何と優しいのだろうと王は思いました。
その優しい視線が醜い王子に向けられている事すら許せません。その悔しい感情は無意識に握りしめた拳が自分の手のひらに食い込み血を滲ませている程です。
イエティス王の震える拳から滲む血を見てテネリ王妃はアガ王子をそっとゆりかごに置きました。
そして床に膝まづくと深々と頭を下げました。
「王様、こんなにも苦しめてしまい申し訳ありません。この子が産まれたて来た事がこの国にとって悪なのであれば、産んだ私にも責任がございます。どうか私も死罪にして下さい」
王は自分の前で膝まずく王妃の姿に苛立ちと悔しさと悲しみの感情が溢れ入り混じり、自分がグニャリと捻じ曲げられた感覚になりました。
「も、もうよい。お前の気持ちは分かった、このバケモノと死ぬと良い…」
王は壁を伝うように部屋を出ました。勿論大事なテネリ王妃を死罪にする事など考えてなどいませんでした。
しかし次の日、テネリ王妃とアガ王子の姿は城から消えていました。
イエティス王は懸命に探させましたが二人を見つける事はできません。
王はテネリ王妃との最後の会話を思うと胸が張り裂けそうな程苦しく、そして愛していた王妃の姿が無い事が寂しくて恋しくて、後悔という黒い闇に溺れていきました。
最初のコメントを投稿しよう!