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王子
あれから五年の歳月が流れました。
テネリ王妃とアガ王子が消えた後、国民には出産後に二人とも亡くなってしまったと伝えていました。当時は国中が悲しみに浸っておりましたが、時が経つに連れて悲しみも薄れテネリ王妃の名を言う者もいなくなりました。
二人が消えてから間もなくしてイエティス王には新しいお妃様がいらっしゃいましたし、そのお妃様との間に王子が誕生されていたからです。
稀にみる豪雨の日でした。国中は雨水に浸り空から雷が落ちるもの凄い音と共にその王子は産まれました。
王子はイエティス王が望んでいた端正なお顔立ちをしています。
待ちに待った王子の誕生に国中がお祭りで皆が祝福しました。
ですが、王は王子を可愛がりませんでした。
そして王子を産んだお妃様を大切にする様子もありません。
王はずっとテネリ王妃を忘れる事が出来なかったのです。
新しいお妃様もそれを感じておりました。
王はよく夜空を寂しそうに眺めているのです。
「王様何を眺めておられるのですか?」
「星をな、あの星の様な美しい髪が懐かしい…」
新しいお妃様はすぐにテネリ王妃の事だと思いました。何故なら新しいお妃様の髪は星の輝きを引き立たせる夜空の様な黒髪だったのですから。
新しいお妃様は王に愛して貰いたくて懸命に尽くしました。しかし王の気持ちが動く事はありませんでした。
新しいお妃様は悲しみのあまり自ら命を絶ってしまいました。
それでも王はテネリ王妃を求めていました。
そして何故かあの醜い我が子を思い出し、今いる可愛らしいお顔の王子を自分から遠ざけたのでした。
産まれたばかりの王子は父であるイエティス王からも、命懸けで産んだ母の王妃からも愛される事がありませんでした。
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