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大陸の各国に、ある報が飛散した。
ーー寒村のあばら屋が光り輝き、瀕死の病人が快癒する
ーー従者たちは祈りを捧げ、村人たちは『神の降臨』とひれ伏す
ーー奇跡を発現した者は『奇跡の聖王』である
第一報から数ヵ月も音沙汰のなかった『奇跡の聖王』の第二報である。
諜報員を数倍に増員してもなんら新たな報がなく、各国に弛緩した空気が流れての続報である。
ーー聖王の名に怖じ気付いた
ーー王宮の奥深くに閉じ籠っている
ーー暗愚な王である
などと、侮蔑の目で見られていたものが、一気に不気味な存在となった。
その後、続々と報が入ってくる。『聖王』が王都周辺の街や村を巡り、何度も『奇跡』を起こしている、という内容だ。
また『聖王』は自国の子供を教育するための機関を整備しているようだ。しかも、身寄りのない孤児や身体の不自由な児童を含むという。
ーーこれは『慈愛』をアピールする狙いか。
命が軽いこの時代にはそぐわない施策である。なにか裏があると警戒を強めなければならない。例えば、兵士の家族が後顧の憂いをなくすことに繋がるし、他国からの移民の獲得を念頭に置いているとかーー。
だとすれば、単純である。戦力増強だ。
普通に考えれば、人口は国力である。著しい移民の受け入れは軋轢や混乱を招くが、うまく運用できれば生産力の増強になる。
セイシン王国は、王が『奇跡の聖王』を自称していることから、周辺国との軋轢は避けられないのだ。戦力の増強は急務である。
もし戦力が整ってしまうと……、
ーー奇跡、という奇術で大衆を欺き
ーー慈愛、などと偽善で耳目を引き
ーー聖王、を僭称して人々に期待を抱かせる
という王が、他国の文句を封殺する戦力を背景に、大陸に覇を唱えるーー。
まさかの、古の『聖王』の再臨だ。
小賢しいパフォーマンスだが、今は『聖王』の宣伝が絶大な効果を持ち始めている。もしかすると『聖王』を中心に大陸が動きを見せることになるかもしれない。
これは、見極めなければならない。『聖王』を僭称するからには、他を圧倒させるような『切り札』があるに違いない。それを見極めてから旗色を鮮明にしても遅くはないだろうからーー。
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