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「あなた、何やってんの! 帰るよ!」  声がホールに響いた。禎雄は目をキョロキョロさせたが、ナイフを持った手はそのままだ。 「桜子、もう少し、もう少しなんだ。こいつら絶対隠している。もそう言ってた。『幸運薬』が見つかりそうなんだ。邪魔しないでくれ」 「ここの人は嘘つくような人じゃない! 幸運薬なんてないの!」 「嘘だ! 俺は病院で試験を受けた」 「それでもないの! 今ここにはないの!」  禎雄の肩が落ちた。 「幸運薬を見つけるんだ。世界の果てまで探しても見つけるんだ……どんな手段を使ってでも見つける……病気のままじゃ、桜子にも子供たちにも苦労をかける。俺はいい父親じゃなくちゃ」  禎雄はバランスを崩しかけたのを辛うじて支えるように、足を前に動かす。危ない! 歩くたびに刃先が喉に刺さりそうになる。 「俺は一家の大黒柱じゃなくちゃ……みんなを守るんだ」 「守ってくれなくていい!」  桜子が叫んだ。感情むき出しの彼女を、いつきは初めて見た。 「誰が『わたしを守って』って頼んだよ」 「結婚する時、君を一生幸せにすると約束した」 「そうね。でも、一生幸せ、なんてできる訳ない。あなたはわたしを幸せにできないわ。自分で幸せになるしかないの。わたしがあなたの病気を治せないのと同じ。医者が治せないなら、誰も治せない」 「なら別れてくれ。お前たちを不幸にする俺なんて、要らない。いない方がいい」 「見損なうな!」  桜子は爆発するように、また叫んだ。 「あなたはわたしの家族、人生の一部だ。切り捨てられるかよ。それくらいの覚悟は決めてんだ!」  桜子は言葉を切った。いつきは固唾をのんだ。 「あなたに病気を治して幸せになってほしいけど、治らないならそれでもいい。わたしたちのために、そんなに苦しむくらいなら、一生治らなくてもいい!」
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