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「千絵ちゃんついに告白するんだ!マジかぁ!」
「や、やめてよココちゃん、声が大きいってば」
教室に響く浮かれきった声。あたしは苛々とそちらの方に視線をやった。
あたしの天敵とも言うべき女が、友達数名と妙にはしゃいでいる。最近はいい具合にヘコんでいてざまあみろと思っていたのに、今日になって急に立ち直ってきやがったらしい。なんて前向きな奴だ、と思った。教科書をトイレに漬けてやっただけでは気に食わなかったというのか。
――つか、今告白って聞こえたんだけど。マジ?
うげぇ、とあたしは気持ち悪くなって思わず舌を出す。
あのデブスな千絵が、まさかの告白。相手の男子が気の毒すぎてハゲるレベルではないか。一体何でそんな勇気を出す気になってしまったのだろう。彼女が男の子と喋っているところなんて見たことがないし、むしろうまく喋れるようにも思えない。女子相手にだっていつもおどおどしているし、視線も定まらないし、小さな声でぼそぼそ言うばかりで人をイラつかせるのが特技みたいな女だというのに。
絶対にうまくいくわけがない。
ただ、彼女が告白したい相手が誰であるのかはだいぶ気になっている。この様子だと、千絵の周りの友人たちはその存在を知っていた様子だ。友達にだけは、好きな相手を明かしていたということだろうか。
――あいつが好きになりそうっていうと……野球部の手島とか?テニス部の春日井……だったら面白いんだけどな、あいつカノジョいるから確定で振ってくれるだろうし。ひょっとして美術部の守屋?あ、あれはやばいかも。ブサイク同士でお似合いではあるけど、あいつもモテなさそうだからマジでくっついちゃうかも。それはそれでムカつく。
このあたしにさえ彼氏がいないのに、あのキモデブ千絵に彼氏ができたら腹立たしいことこの上ない。例え相手が、嫉妬する価値もないほどの不細工だったとしてもだ。彼氏がいる、ということ自体が一種ステータスになってしまうのは間違いないのである。
誰なのか突き止めてやりたい、あたしは一人爪を噛んだ。
もし成功しそうなら、思いきり邪魔をして失敗させてやりたい。無論、あの女を好きになる男なんかいないだろうとは思っているが、念には念をというやつだ。
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