いいつたえ。

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 ***  中学二年生の春。あたしは、マジでこのクラスは外れ、と思ったものである。友達のエナと同じクラスになれたはいいが、他の連中にゴミが多いのだ。男子に不細工が多いのはもう仕方ないと諦めるとしても、女子まで嫌いな奴が多いのは何事だろう。  特に、吾川千絵(あがわちえ)は最低最悪レベルだった。去年、美術部みんなで出した絵のコンクールで入賞したらしいと聴いて嫌な予感はしていたのである。きっと、画力を鼻にかけた嫌な女に違いないと。ただでさえ根暗な美術部連中と仲良くなれる自信がなかったから尚更に。  案の定と言うべきか、想像以上に千絵はムカつく女だった。生理的にキモくて受け付けない見た目に加え、人にマウントを取ってくることはないがいつも自信なさげにぼそぼそと話す姿も腹立たしい。視界に入れるだけで心がささくれる。それは、エナも同じであるようだった。このクラスから追い出すのはあいつにしよう、と四月の段階で決まったのである。追い出すといっても、中学生だから退学なんて簡単にできることではない。本人が学校に来たくなくなるよう、不登校に追い込んでやろうというのである。  あの女が不登校になれば、あの気味の悪い低い声も、デブスな見た目も視界に入れなくて済むようになる。あたしもエナも、気持ちよく学校に通えるようになるというものだ。  去年も大嫌いだった男子を一人、同じように不登校に追い込んだ実績のあるあたしである。今回もきっとうまくいくだろう。 「教科書をトイレで漬物にしても、運動靴の紐切っても、あいつ不登校にならなかったけど」  あたしが“告白”の話をすると、エナがにやにやと笑いながら返してきた。 「告白してフラれた現場を撮影してさあ、SNSにアップして拡散してやったら……さすがのあのデブスも堪えると思うのよね」 「でしょ?あたしもそう思う。あたしだったら恥ずかしくて絶対学校に来れないもん。あたし達の力だけじゃ足らないならさ、みんなの力も借りないとね。みんなで笑いものにしてやれば、きっとあいつを学校から追い出すのも夢じゃないっつーか?」 「うんうん。私達、魔王を倒す勇者みたいでマジかっけーっつーか?」  ふふふふ、と休み時間に計画を立てるあたし達。問題は、千絵が誰に告白するつもりなのか?がさっぱりわからないということである。  今日の放課後に実行するらしい、というところまでは情報を掴んでいるのだが。 「悪ぃわ、綺音(あやね)。私もいろんな奴にそれとなーく聴いて回ったけど、デブスが誰に告白するつもりなのか全然わかんなくって。ていうか、知ってる奴がマジであいつの友達くらいしかいないっぽくて」 「エナでもわからないか。先回りして手を打っておきたかったのに、しょうがないわ」  ならば、作戦は一つだろう。使えそうな道具を準備して、放課後あいつの後をつけるのである。  幸い、千絵が所属する美術部の活動は今日お休みだと知っている。でもって、あたしとエナは揃って帰宅部というやつだ。鈍いあの女を尾行するのも難しくはないだろう。 「あいつに恥をかかせてやれるような道具、綺音は何か持ってる?使うかどうかわからんけど、準備だけはしておきたいっていうか」  エナの言葉に、私はにやりと笑ってバッグから道具を取り出した。  とあるディープな雑貨店で買った白いカラーボールである。投げつけるとインクが飛び散るというやつだ。 「場合によってはあいつの顔面と股間にこれをお見舞いしてやるわ。パンツまでびっちょびちょ。はずかしー」 「あははははは、綺音サイコー!スカートに飛び散ったら精●みたいで結構きもいんじゃねー?」 「でしょでしょ?」  さてさて、お楽しみはここから。あとは放課後を待つばかりである。
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