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第2話『パーティメンバー面接』
パーティにはいくつか型がある。
攻撃型。
守備型。
バランス型。
超攻撃型。
超守備型。
依頼内容ごと、クエストごとにパーティを組みなおすことができるならいいが、そんな余裕、普通はない。思うようなパーティを組むことができるのは余程の金持ちか幸運持ちだけだろう。勇者であるリオーですら回復役に四苦八苦していたほどで、第一希望僧侶、第二希望薬師、そのふたつのジョブが得られず、妥協に妥協を重ねて俺を仲間にしていたくらいだ。
「三年間もな……」
これじゃないと思いながら三年も。ずっとそんな目で俺を見ていたのかと、そう思うと余計に悔しい。
冒険者が旅の仲間を求める酒場で、俺は本当にナンパ師の如く手あたり次第に色んな人間に声を掛けたが、当然料理人などまるで相手にされない。
「そりゃ食い物が美味いに越したことはないけどさ」
戦闘に役立たない人間と冒険に出る意味が分からない。
即効性のない回復役なら母ちゃんで十分。
美少女が腋の下で握ったおにぎりだったら金払う。
等々。
「あのぅ」
それなりに落ち込んでいる俺に後ろから声が掛けられた。あまりにも小声だったので最初は気づかなかったが、振り返るとそこには小柄で寝癖のついた少年が立っていた。
「ぼ、ぼく、トガといいます。トガ・マギランプ」
「マギランプ……?」
「ぼくを仲間に加えてはいただけませんか?」
「それは願ってもないことだけど」
俺は少年の名前が気になった。俺を追放した勇者パーティの高慢ちきな魔法使い、ネブラフィカもマギランプ姓だからだ。
「君はネブラフィカとなにか関係があるの?」
ああと少年はどこか残念そうな声を上げた。
「ネブラフィカは姉です」
世間は狭いと云うべきか。トガも当然魔法使いということだが、いくら修行しても最弱の攻撃魔法すら成功率三割に達せず、代々宮廷魔法使いを輩出している華麗なる一族マギランプ家の末弟でありながら、親からも好きに生きろと半ば放逐されているのだと云う。
「ぼく、こんなだから誰も仲間に入れてくれなくて。あなたはあの、姉と同じ勇者リオーのパーティにいたんですよね?」
ま、まあ、そうっすと俺は返答を濁した。世間的な評価で考えれば若干なりとも箔がついたのかもしれない。
「……君はどうして冒険を?」
トガは家族を見返したいと云った。
「見返したいんです」
追放された悔しさをバネに踏ん張っている。俺も一緒だと、トガの目を見た。
「……うん。わかった。必要なときは声を掛ける」
トガが立ち去り、次に声を掛けてきたのは手に陶器のジョッキを持った痩せぎすの男だった。口に銜えた爪楊枝が様になっている。時折咳をしているのは軽い感冒に掛かっているからだとか。
「仲間集めかな?」
「そうです。俺は料理人のカザン」
大抵がその自己紹介で立ち去っていく。男はこれは珍しいと笑った。若そうだが痩せているせいで笑い皺ができる。
男は咳払いをした。
「いやあ、喉が痛くてね」
「お湯におろししょうがと蜂蜜いれて飲むといいです」
男はベルエフと名乗った。斧を扱う戦士だと云うが重くて扱いにくいとのことで持ち歩くことはないそうだ。病弱で困ると笑う。背は高いが確かに筋肉は乏しい。目つきは悪いが穏やかな話し方をする。声は高い。
「君の所に加えてもらえると助かる」
「俺が料理人でも?」
「なんでもかまわんよ、冒険に出なくては金が稼げない。金がなければ酒も飲めない」
血筋がいいだけの三流魔法使いと武器を扱う体力がない病弱戦士。俺は正直悩んだ。彼らには悪いがそんな二人とパーティを組んだところで、畑を荒らす小鬼すら追い払えないのではないか、そんな考えが頭をよぎる。
「ああだめだ……」
これでは自分をクビにしたリオーと同じだと、俺は首を振った。
「駄目かい?」
「ああいや」
ぶん、と耳障りな音がした。蝿だ。
蝿はベルエフのジョッキの縁に止まった。ベルエフは眠そうな目のまま爪楊枝で蝿をテーブルに串刺しにした。目にも止まらぬ早業とはこのことかと俺は思った。
「蝿ぐらいなら簡単なんだけどねえ」
まあ考えておくれとベルエフは立ち去った。
流れなのか、誰か噂しているのか、その後も俺のもとに仕事の面接を受けにくるようにパーティ加入希望者が訪れた。
踊り子。舞い踊りパーティーメンバーを鼓舞し勇気づける。踊り子も技術が熟達するとその踊りで仲間の体力を回復させたり、攻撃力をあげることも可能になるとか。
胸を強調した衣装。下も辛うじて股間が隠れているが、激しく動けば丸裸になりそうだ。
踊り子は俺が料理人だと告げると、無言で立ち去った。
「正しい判断だ、俺もそうする」
職業差別はいけません。でもここは冒険者が仲間を求めて集う酒場です。
次にやって来たのは騎士見習い。見習いと云えど騎士である、前衛の盾となってもらえるなら有り難い。
「あんた、料理人なんだって?」
「そうだ」
「どうして冒険に出る?」
「馬鹿にしないのか」
「俺は見習いだが、いずれ王国騎士団に入る男だ。今はとにかく腕を磨きたい。そのためには俺が目立つことができるパーティがいい」
「なるほど、そういうことか」
そういう考え方もあるかと感心した。
俺は騎士見習いを上から下まで観察し、縁があれば呼ぶよと云った。
次に来たのは忍者。覆面で顔は見えない。忍者は戦闘力があり使用武器の幅も広い。ニンジツと呼ばれる疑似魔法のようなスキルを身につけることができ、上級ともなれば一撃必殺、暗殺のスキルを覚えることができる。
忍者も俺のジョブを笑いはしなかったが、食い物は携行食で十分と干した肉だの米だのがあると云った。
ぼんやりと思案する俺に忍び足で近づいてくる影。忍者が戻って来たのかと思ったが。
おまえ、目はいいと思うぞ。
不意に魔獣使いポーの言葉が蘇る。
俺は腰に提げたお金を盗もうとしていた手を掴んだ。
「いたたっ」
「駄目だよ、盗んじゃ」
「だって私、盗賊だし」
盗賊はライホと名乗った。ざっくりしたショートカットの金髪。頭頂部に反ったアホ毛。八重歯に大きな目。快活でよく笑い、声も愛らしい。
「盗賊なら、解錠のスキルとか持ってる?」
「まあね。一通りは」
盗賊。腕力はないが小器用で敏捷性に長け、探索補助系の魔法を習得することもある。有能ジョブであることには違いない。
「俺のパーティに入らないか」
「あんたのパーティ? あんたジョブは?」
「料理人」
ライホは大声で笑った。哀しいことにそうした反応にはもう慣れた。
「笑い過ぎ」
「ごめんごめん。でもさ」
「料理人だって冒険したい、じゃ駄目かな」
ライホは暫く思案顔でいたが、俺の申し出を受け入れた。
「ここの連中結構頭が固いのが多くて盗賊は嫌われるのね。ね、頑丈そうなタンクがいると安心なんだけど、いる?」
周知の事実だが、タンクとはパーティの盾役のことだ。
たしかに盗賊は前衛になり得ない。防御力も低く、体力の伸びも悪い。盗賊をパーティに入れるのならば有能な盾役も欲しいところなのは当然だ。頑丈な盾に守られはじめて、盗賊はその特性を活かすことができる。
「だったら戦士か、騎士見習いか。忍者はちょっと違うかな」
「騎士がいいな。見習いでも、大盾とか有能スキル習得するかもしれないじゃん。王国の謝肉祭も近いわけだしね」
ライホは八重歯を見せて笑った。
「じゃ決まり。あと一人は忍者にしようよ。この国じゃ希少過ぎて、どれくらい使えるジョブなのかわかんないけど、聞いた話じゃ敏捷性も高いらしいし近接戦闘も魔法もいけるとか。ま、私とキャラ被るのが難点だけどパーティとしては面白いと思うよ」
「ううん」
俺は思案する。ライホの云うのはもっともだと思うが、いまいちしっくりこない。
職業(ジョブ)は生まれつきのものである。大抵家業を継ぐ形で決まる。転職はご法度。仕事とは神の御心により定まった神聖なものであるからだ。
スキルは職能と呼ばれ、多く就いているジョブによって芽吹き成長する。戦闘職である騎士や戦士ならば武器を扱う技術が伸びるのは当然だ。その一方で、スキルを才能と見ることもある。その場合、ジョブとは全く無関係な能力が身につくことがある。
歌の上手いバーサーカー。
笑いが取れる猟師。
カリスマ性の高い棺桶職人。
「ね。騎士見習い」
俺が一から決めるはじめてのパーティ、ここは慎重にいきたいところ。とはいえ、肚はだいたい決まっているのだ。
とにかくもうすぐ謝肉祭が開催される!
俺は自分に与えられたスキルが知りたい!
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