序章

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序章

おじいさまが話してくれる、遠い、遠い……昔の話 俺は、その話が、とても、とても好きなんだ。 「銀色の鬼」 銀色の髪と瞳を持つ、逞しくも美しい鬼がいたという。 鬼は人のオメガと(つが)ったことで人としての心を持ち、穏やかに毎日を過ごしていた。 しかし、その番の命が奪われた。 ぐったりと横たわる番のそばに力なく膝をつき、青白い頬に両手でそっと触れる。色を失った唇を吸い、冷たくなった体を抱き寄せ体温を分け合うように肌を合わせる。 行き場のない悲しみと怒り、愛する人を守れなかった自分への苛立ちが刃となり精神を壊していく。暴走する強大な力は制御などできるはずもなく、鬼は黒光りする愛刀を振りかざして地面を裂き、立ち並ぶ木々や建物を薙ぎ倒し、瞬く間に町を破壊したという。 この言い伝えがどこまで真実に基づいているか分からないし、もしかすると架空の出来事かもしれない。しかし、銀色の髪と瞳は今日(こんにち)に至っても恐れの対象であり、忌み嫌われていた。そして、その鬼の愛刀だっとされる刀は、いわゆる名刀であり、何代にも渡りその美しさと切れ味を保ちながら引き継がれている。 この刀を持つ人が、俺の前に現れた。 昔話の中の鬼と同じ、銀色の髪と光を受けて銀色に光る灰色の瞳を持つ、逞しくも美しい人が、実在したんだ。
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