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束の間
チェックインまでを過ごすのに選んだのは、頻繁に利用している個室のあるカフェ。個室はソファ席になっている。食事を取り終え、うとうととし始めた由紀乃を自分に寄りかからせて艶やかな髪を撫でる。そうしていると、スマートフォンに義父からの着信が表示された。
『今、お前を訪ねてノハラという男性がいらしている。近くまで帰っているならお待ち頂くが、どうする?』
ノハラ?
「ノハラという方には知り合いはいませんが……十六時頃そちらに着きます。その頃でよければお話を伺いますと伝えて頂けますか?」
『分かった』
通話を終えると、由紀乃が心配そうに私の様子を伺っていた。
「行かなくても平気?僕なら一人でも大丈……」
由紀乃の唇に指で触れ、その言葉を止める。
「こんな鍵もかからない誰でも出入りできる場所で、一人でも大丈夫だなどと言わないでください。寝ることさえも忘れて、あんなに攻めたててしまったのは私です。疲れきっているあなたを置いて行けるはずもありません。あなたを一人待たせるなら、せめて、安心して眠れる場所で待っていて欲しいのです」
「うん……ありがとう」
寝息を立てる由紀乃をソファに寝かせ、頭を膝に乗せる。由紀乃の体に膝掛けを広げ、そのままチェックインまでの時間を過ごした。
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