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可能性
完全予約制のΩ専用の産科。開業しているのはアルファとオメガの夫婦で、夫婦共に優秀な産科医とのこと。
全ての診察、問診を受け、二人の見解を聞く。
まず、体が未発達であるのに発情期を迎えるオメガは珍しく、発情期を迎えたことで体と子宮の成長に差がでてしまう。発情期を迎えてからすぐに専用の薬でコントロールすれば、体の成長と共に子宮はほぼ問題なく発達するが、由紀乃はこのコントロールをしてもらえなかった上に、抑制剤を長く多量に服用していたことで未発達なままの子宮は機能することをしなくなってしまっていた。プラス、十八歳になってからは誘発剤を服用するようになり、妊娠のリズムを失ってしまったのだという。これらが、発情期であっても妊娠できない理由だとのこと。
由紀乃は、ただただ二人の説明を聞いていた。
「しかし、全く妊娠できないという訳ではありません」
「……ゼロじゃ、ない?」
由紀乃の声は震えていた。
「はい。まずは、誘発剤も抑制剤も服用せずに、自然なヒートで妊娠するということを体に思い出させることが先決です」
「誘発剤も?」
「はい、誘発剤は、しっかりと成長した体と子宮があってこそ効果のある薬です。失礼ですが、由紀乃さんの子宮は、未だ子宮口が開くほど成長していませんので、誘発剤は妊娠には逆効になります。自然に任せるのが一番良いのです。アルファとの性行と体内への射精で子宮の発達は促され、妊娠率は上がり、アルファが番であれば、さらに妊娠率は上がります」
「僕は、椿くんの赤ちゃんを産めるかもしれないの?本当に?」
由紀乃は、瞳を潤ませる。
「ただ、妊娠の可能性があるというだけで、妊娠しにくいことには変わりません。焦らず、ご自身を攻めたりせず、ゆったりと構えて無理のない性交を行ってください。発情期の頃に定期検診に来ていただければ、体の状態から妊娠率を上げるアドバイスができると思います。不安なことがあればいつでもご相談ください」
「よろしくお願いします」
早速、定期検診の予約を取り、帰宅した。
玄関扉を閉めると、由紀乃は大粒の涙を流して私にすり寄ってきた。その体を強く抱きしめる。
「椿くん、赤ちゃん、できるかもしれないって……」
「はい」
「僕、嬉しくて……」
「今以上に体を大切にしましょうね」
「うん」
涙に濡れた顔を上げた由紀乃は、艶やかに微笑んだ。
その顔を両手で包み口付ける。
「椿くん」
「はい」
「赤ちゃんができるまで髪を切らずにいてくれませんか?」
「願掛けですか?」
「うん、赤ちゃんできるまで、髪を伸ばし続けるんだよ」
由紀乃は、自分の黒髪に手を触れる。
「僕の髪は、赤ちゃんできるまで切らないって決めてるんだけど、椿くんも一緒にしてくれたら嬉しいなって……」
「由紀乃の願いなら、喜んで」
「ありがとう!」
子供のように喜ぶ由紀乃を抱き上げ、ベッドへ下ろす。
「そろそろですね」
「え?」
「予定では来週でしたか……」
「あ、発情期……」
頬を染めた由紀乃の耳もとで「頑張りましょうね」と言えば「椿くんは、いつもすごいじゃない」と返ってきた。そのまま唇を重ね、ゆっくりと肌を重ねていく
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