発情と抑制剤

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発情と抑制剤

刀を鞘に収め、汗を拭う。 部屋義父を部屋から送り出して三時間と少しが経っていた。 彼が六錠もの抑制剤を飲んでいたことが気がかりで、頭から離れない。 抑制剤、あれはキツイ薬だ。一般的には番を持たないオメガが発情期に服用するものが知られているが、アルファが服用する抑制剤もある。私は初めてオメガフェロモンに当てられた時、自慰行為で何度達しても収まらな体の辛さに、市販されている抑制剤を服用し、副作用に苦しんだ。異常な寒気は数時間続き、吐き気どころか嘔吐を繰り返し、食べることはおろか、飲むこともできず脱水を起こし点滴までうけ、丸一日寝込んだ。 それからは日々の鍛練とは別に、こうしてこの刀に頼っている。 二時間前 脱衣場を出た後、とりあえず自室に向かい廊下を進んでいると、途中で目を開けた彼は私を見るなり顔を真っ赤に染め、手足をバタつかせた。 「っと……」 「あのっすみませんっ」 腕の中から飛び出してしまいそうな体を、腕に少しばかり力を入れて抱き寄せる。 「落ちてしまいますよ」 言うと、体を強張らせ、おずおずと目線を上げて恥ずかしげに顔を赤くする人。 「あの……すみません、歩きます……」 「大丈夫ですか?」 「はい……」 片膝をつき、片膝を立てる。立てた膝に一旦彼の腰を下ろし、膝裏に差し込んだ腕を滑らせて足先を床に導く。 「私の肩を掴んで、ゆっくりと立ってください」 「あの……」 「難しいですか?」 「いえ……ありがとう、ございます」 立ち上がった彼がふらついていないことを確認して、ほっと息をつく。 「一人で戻れますか?」 「はい。ご迷惑をおかけしました」 「いいえ、無理はされませんように」 「はい……ありがとうございました」 頭を下げる彼を慌てて止め、荷物を手渡し、そこで別れた。 滾る体をもて余しながら私は足早に自室に戻り、稽古着に着替えて愛刀を握り、早朝から解放されている道場へと急いだのだ。 そして、今に至る。 一旦部屋に戻り、身なりを整え義父の部屋へと向かう。 扉をノックすると、すぐに出迎えられ、溜め息をつかれた。 「随分と遅かったな」 力なくそう言われ、拍子抜けした。事情があったとはいえ、いつもならばこれほど待たせてしまえば一喝されている。 「すみません」 「まあいい。椿、これから一週間、ここで世話になりなさい。家元が直々にご指導くださるそうだ」 「随分と急ですね。昨日、家元はお忙しいと伺いましたが」 「指導とは建前だろう。あの方は、昔から変わったものがお好きなんだよ。お前にも、あの刀にも興味を持たれたのだろう」 「……いい迷惑ですね」 「……そうだな」 力なく苦笑う義父に、断る訳にもいかないのだろうと察する。「わかりました。私は残ります」 「すまないな」 「家元へは、後ほど礼を兼ねてご挨拶に伺います」 「そうしてくれ」 ゆっくりと帰り支度を始めた義父を手伝い、そのまま見送り、今に至る。 挨拶のために家元の部屋へ行く時間が近くなったていた。
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