あなたのこと、わたしのこと

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あなたのこと、わたしのこと

手元には、家元のスケジュール。明日から一週間、早朝から遅くまで予定が詰まっていた。齢八十三でこれをこなす家元はアルファとはいえ規格外の人間だろう。今日もこれから外出されるそうだ。家元の外出時、私は自由。道場は私のために終日開放してくださるそうだ。これはありがたい。ただし、屋敷の中で呼ばれた際はすぐに駆けつけるようにとのこと。 剣術の指導を受けることは叶いそうもないが、私を引き止めた理由も理解しがたい。家元の睡眠時間などを考えば、私と接する時間はないに等しいのではないかと思う。 二十三時、今日はもう呼ばれることもないだろうと寝間着に着替えようとしたとき、部屋にノックの音が響く。こんな時間に何だというのか……昨夜のことが頭をよぎり億劫になる。扉を開けると、そこには家元の秘書をしている男性が立っていた。 「家元がお呼びです。ご同行願えますか?」 私に行かないという選択肢はない。 「……わかりました」 長い廊下を歩き、着いたのは家元の部屋の隣。その部屋の扉をノックもなく開けた秘書は、中に入るよう私を促しその場を去った。 中には、あの部屋と同じように襖があった。違っていたのはその襖が開いていたこと。中には椅子にゆったりと腰かける家元と、昨夜と同じ赤い襦袢を身に付け隣に立つオメガの彼。 「こちらに来なさい」 「はい……」 「ああ、襖は閉めて」 「はい」 襖を閉めて指示を待つ。出来れば何事もなくこの部屋を出たいものだが…… 「昨夜の余興に混ざらなかったのはなぜだ?」 「私は、あのような余興は好みません」 「……そうか」 家元は立ちあがり彼を引き寄せる。そして蝶々結びにされた帯をほどくと、赤い襦袢を彼の体から引き剥がした。 「あっ!」 思わず声を上げて身を縮める彼の細い手首を家元は片手で纏めあげ、その裸体を私に向かって晒す。 「では、今ここでこの子を抱いてみせなさい」 「……人に見せるようなものではないと思いますが」 彼の白い肌には昨夜の事情の痕がいくつも残っていた。その肌を皺の目立つ大きな手で撫でる家元は、体を震わせ始めた彼を見ながら楽しそうに笑う。 「私の楽しみだからだよ。ほら、可愛いだろう?この子が乱れる姿を見るのが好きなんだ。他に理由が必要か?」 「……悪趣味ですね」 思わず口をついた嫌味に家元は高笑う。 「それは誉め言葉と受け取ろう。そうだな、この子の話をしようか。聞けば、きっと抱いてやりたくなる」 「……なりませんよ」 「まあ、聞け。すぐに済む」 家元は、撫でていた彼を飽きたとばかりに私の方へ追いやると椅子に腰かけた。ふらつく彼を引き寄せ、着ていた羽織でその細い体を包み、倒れてしまわないようやんわりと抱き寄せる。彼は私の胸に寄りかかるように両手を添え俯いた。 家元はまた、にんまりと笑う。 「由紀乃(ゆきの)は、体が未成熟な九つの頃に発情期を迎えたオメガなんだよ。そのせいか未だ発情期であってもフェロモンに匂いがなく、子宮も未成熟なままで孕むこともない(まれ)なオメガなんだ。番にとは望まれなくとも、多くのアルファに愛されるためには必要なことだ。この子はそのために生まれたオメガなんだよ。アルファの唯一になれないなら大勢のアルファで愛してやるのが優しさだろう?幸い私には悪趣味もあるし、昨夜のようにアルファを宛がってやることもできる。私は男娼をしていた十八の由紀乃を身請けしてやったんだよ」 彼の体が小刻みに震え、俯いた顔は長い黒髪で隠れたまま上げられることはない。 「彼がそれを望んでいると?」 「子を孕むまでは頑張るそうだよ。それなら子種は多い方が良いだろう?」 「誘発剤まで使っているのは彼の希望だと?」 「ヒートの方が妊娠率は上がるだろう?それに誘発剤を使うとなぜかフェロモンが匂うようになるからね。優しさだよ」 何が優しさなのか。無理なヒートを起こすことが、彼のためだとでも言うのか。 「数時間前に発情期が来たようなんだ。今は抑制剤で抑えているが、そろそろ効き目が薄れてくる。相手をしてやらなければ可哀想だろう?」 誘発剤を使う反面、周期的な発情期は抑制剤で抑えていたことに矛盾を感じる。 「そのために私を引き止めたのですか?」 「ああ、お前は美しいからね。どうせ見るなら美しい者同士が楽しめる」 クツクツと笑う家元 「私には外出の予定はないとお伝えしたはずです。彼の為に私を引き止めたとおっしゃるなら、なぜ抑制剤を飲ませるのですか?」 胸に抱いた体が熱を帯び始め、荒い呼吸が聞こえてきた。 その変化に気づき、にんまりと笑う家元に背筋がゾッとする。 「私の為だよ。日中、私に自由な時間は無いに等しい。見損ねるのは悔しいからね。由紀乃のヒートは私が楽しむ為のものだ。私がいない時にあってはならない」 彼が抑制剤を飲まなければ叱られると言ったのはこれが理由か。 「んっ」 腕の中の彼は小さな声を漏らし、その体からは次第にフェロモンが滲み始める。 「……随分と勝手な理由ですね」 「由紀乃を身請けしたのはその為だからね。何度見ても全く飽きない、極上のオメガだよ。お前のそのポーカーフェイスが崩れていくのもさぞや見物だろうね」 家元は高みの見物とばかりに肘掛けについた手に顎を乗せた。 「……や、です……」 小さく震える声は俯く彼から聞こえてきた。 「世那さんとするのは、いやです……」 わずかに胸が痛む。なぜだろう、人に嫌われるのは慣れているはずなのに。 「どうした?私を楽しませるのはお前の仕事だろう?」 表情を厳しくした家元が、先ほどまでとはうって変わった低い声で彼を叱咤する。 「他の方と、できなくなりそうで……」 「お前の都合は関係ない!」 家元は身を乗りだし声を張り上げた。 胸に添えられた両手が私の着物を握り、体がビクリと跳ね上がる。怯えているであろう彼の反応にでさえ煽られる自分に嫌気がする。冷静になれと自分に言い聞かせる。 「今、お前の脚に垂れてきているそれはなんだ?そうして立っているだけで尻を濡らしてアルファを誘っているんだろう?ヒートの体は正直だな。どんなに嫌だと泣いたところでヒートのお前はアルファであればだれでも誘うんだ。アルファが放っておかない。どうしても嫌なら世那の子供を孕めばいい。お前が孕む奇跡があれば、その首輪を外して解放してやると約束してやっただろう?どうしても嫌だと言うなら、明日にでも身請け金を私に支払いなさい。それとも、お前の代わりを連れてくるか?」 「それは……っん、あっ……」 腕の中で崩れ落ちそうになる熱い体を咄嗟に抱き上げると、彼のフェロモンを一層強く感じて目眩が起こる。首もとにかかる熱く甘い息に肌が粟立ち、理性が砕けそうになった。駄目だ……彼の真意を確認するまでは、駄目だ…… 「家元、今夜は彼と二人にしていただけませんか」 「世那、私の話を聞いていなかったのか?二人にするなら抑制剤を飲ませる」 また、あの量を飲ませると言うのか…… 「……あぁ、でも」 家元は目を細めて私を見ると、唇の端を上げニヤリと笑った。 「お前の刀と引き換えと言うなら、応じてやってもいい」 私にとってあの刀は支えであり大切なものだ。なにがあっても手放すつもりはなかった。それでも、少しでも彼の為になるなら惜しくはないと思える。 「分かりました」 「……随分とあっさり手放すのだな。少しは取り乱すかと期待していたのに」 拍子抜けしたように言う家元は「面白くない」と溜め息をついた。 「そうそう、その首輪がある限り、誰に抱かれようと由紀乃は私のものだ。言っておくが、それは私にしか外せない代物だぞ」 ニヤリと口元を歪めた家元は椅子から立ち上がり、私の(たもと)に誘発剤と抑制剤の瓶を入れた。 「必要なら使いなさい。せいぜい励むといい。刀は明日、出かける前に貰い受ける。部屋へ秘書を呼びに行かせよう」 そう言い残し、家元は部屋を後にした。 二人きりになり気が緩んだせいか、腹の底で燻っていた熱が背筋を一気に登り、身体中を甘く痺れさせていく。 「いい、匂い……」 呟く彼は、私の首に両腕を回し首筋にすり寄ってきた。そして耳元に柔らかい唇が触れる。 「ぼくは、あなたがすき……」 その蜜のような声は直接脳を侵す。もう、限界だ…… ベッドの上にゆっくりと彼を下ろし、両手を伸ばして小さな顔を包む。艶やかな黒髪に縁取られる上気した頬、潤んだ黒曜石のような瞳に赤く色づいた唇、汗の滲んだ肌も全てが愛おしい。だからこそ、伝えなければならないことがある。 「由紀乃さん」 「由紀乃と、呼んでください……」 彼は両手を伸ばし、私の頬をそっと撫でる。なんて心地が良い……自然と頬が弛んでいく。 「由紀乃」 呼ぶと満面の笑みを見せてくれる愛らしい人。 「はい」 「私は、大切な人ほど不幸にしてしまう、鬼と呼ばれる人間です。あなたに酷い不幸をもたらすかもしれない。それでも、私があなたを愛することを許していただけますか?」 彼の目から涙が溢れ、流れ落ちていく。 「ぼく、を……愛、して……くれる、の?」 涙に震える声は小さく掠れ、私の頬に添えられた細い指までが震えている。 「後悔しませんか?」 「後悔なんて、しない……あなたが、すき……ぼくを、愛してください……」 涙を指で拭い、鼻先を触れ合わせる。 「由紀乃、私の一生をかけて大切にします」 私の言葉に顔を赤らめた由紀乃は、思いきったように口を開いた。 「あい、してる?」 そうだね、一番大切なことを伝えていなかった。 「由紀乃、愛しています」 そっと唇を重ねていく。由紀乃のフェロモンが一層強くなり私を包む。匂いこそないがそれがなんだというのか。私はこんなにも煽られ高ぶっている。 僅かに残っていた理性は消し飛んだ。 思うままに舌先で歯列をなぞり、隙間から口内へ滑り込ませると由紀乃の両腕が私にしがみ付く。口付けたままで着物を脱ぎ落とし、羽織の袖から由紀乃の腕を抜いて抱き寄せ、肌を合わせる。すでに頭をもたげていた自分のものがズクリと嵩を増し腹をぺちゃりと叩いた。自己主張の強いそれについ苦笑うと「世那さん?」と由紀乃が首を傾げる。 「すみません」 言葉にするのも気恥ずかしく、僅かに体を離して視線を下へ向けると、由紀乃がその視線を追う。視線を止めた由紀乃が頬を赤らめ私を見上げた。 「もう、あんなに……」 由紀乃が手を伸ばしてその頭を撫でると、またズクリと嵩が増した。 「くっ!由紀乃……」 「すごい……おおきい……」 言いながら、由紀乃はおずおずと膝を曲げ腰を上げていく。 「ここ……して欲しい……」 由紀乃は両手で私の左手を取ると、指を口に含んでぺろりぺろりと舐め始めた。 それだけで、達してしまいそうだった。 手を由紀乃へ預けたまま肘で自重を支え、右手を由紀乃の小さな双丘へと伸ばしてその間へと指を這わせた。既にぐっしょりと濡れた秘部をくるくると撫で綻ばせていく。愛液がとろみを増したところへ指を根本まで差し入れた。うねる壁にすんなりと馴染む指を感じ、二本そして三本と指を増やしていく。 「はぁっ、んっっ」 手首を返すと、コリッとしたシコリが指に当たり、熟れた壁が指を締め付ける。同時に由紀乃の口に含まれた指に歯が立った。チリっとした痛みが心地よく感じるのは由紀乃の唾液に濡れているからだろうが、絡み付く舌の心地よさに感覚が麻痺しているからだろうか。 息を上げながら「ごめんなさい」と詫びる唇を濡れた指先で撫で「大丈夫」と伝える。そのまま二本の指を口内へ差し入れ舌を愛撫すると、苦しげに喉を鳴らしながらも私の手を離さず「世那さん」と途切れ途切れに私を呼ぶ。 「椿と、呼んでください」 口内から指を引き抜くと、赤い舌が追いかけるように伸ばされた。 「椿……」 「はい」 「椿、すき……もっと、して……」 「いくらでも……」 伸ばされた舌を口内に含み舌を絡め、三本の指はピストンの動きで奥を目指す。 唾液に濡れた指で胸の尖りをやわやわと摘まみ、ツンと勃ったところで撫で転がしていくと、由紀乃の体がビクビクと震え始め、愛液で濡れる壁が指をぎゅっと締め付ける。由紀乃の小ぶりなものは芯を持ちながらフルフルと震えていた。 「ま、って、だめ!イッちゃう!」 私の手を握りしめ、爪を立てる。 「由紀乃?」 ハアハアと息を吐く由紀乃は、ゆっくりと両手を伸ばして私のものにそっと触れる。 「これ、欲しい……一緒にイキたい」 潤んだ瞳に見上げられると、由紀乃の手の中で更に嵩を増し張り詰めたものは鈴口から先走りを垂らした。 「すごい……椿の、また大きくなった……」 由紀乃は膝を折り曲げ腰を浮かせる。 「お願い……早く……」 もじもじと擦り合わされる膝頭に口付けて膝裏に手をかけ左右に広げ、秘部に先端をピタリと当てる。それだけで入り口がヒクヒクと先端を食むようにゆっくりと動き始めた。腰を回しながら愛液を自分のものに馴染ませていく。たっぷりと濡れそぼったところで、体を倒し由紀乃に口付ける。 「入れますよ」 息が上がり始めた由紀乃はコクリと頷く。一気に貫きたいのを耐え、少しずつ腰を進めていく。 「あっ!」 由紀乃は目を見開き、シーツをきつく掴む。 皺の伸びきった入り口を拡張するように腰を揺らしながら少しずつ……正直なところ、今、この時が一番辛い。まだ先端部分でさえも入りきっていないと言うのに、由紀乃の熱い壁に包まれた箇所があまりに気持ちがいい。腰を進める度、由紀乃は声を上げ、汗を流して涙を滲ませる。それでも腰を進めているのは、由紀乃のものが萎えることなく先走りで腹を濡らしているのと、熱い壁がひたすら引き込むように動くからで…… 「少し我慢してください」 伸ばされた両手に誘われて由紀乃に被さり抱き締めると、由紀乃の腕が私を引き寄せる。 「来て……」 カリ首までをぐっと押し込んだ。 「あっ!」 由紀乃の体は跳ね上がり、私にしがみつく。一旦動きを止め馴染むのを待っていると、由紀乃の腰がゆらゆらと揺れ始めた。 「由紀乃、まだ……」 「大丈夫だから……全部、ちょうだい……奥に、ほしい……」 限界だ…… 欲しいとせがまれて我慢できるほどの余裕はもうなかった。 結合部に溢れる愛液を手早く自分のものに塗り広げ、腰を揺らして壁を押し開きながら根本までを押し込んだ。 「あ……おっきぃ、当たってる……きもちいぃ……」 由紀乃はハアハアと呼吸をしながらも、うっとりと私を見上げて「ここ」と嬉しそうに下腹部を撫でる。 「あったかい……お腹で椿と繋がってるの、嬉しい……」 目の前が真っ白になった。 「由紀乃、私を嫌いにならないでください」 「椿?」 「もう、止められない」 「うん、いっぱい、して……」 そのまま速度を上げていく。長いストロークで内壁を擦りながら子宮のある奥を目指す。 「椿……すごく、きもちいぃ……よ……もっと、もっと、突いて……もっと、して……」 強請られて、更に強く腰を打ちつける。 「あっ!椿っ」 「大丈夫?」 「きもちイイ、よぉ……おかしく、なっ、ちゃっ、あ、ンっ」 「由紀乃、可愛い……おかしくなればいい……私の事しか分からなくなればいいのに」 由紀乃を抱き起こし、口付けて抱き締める。下から突き上げると、背中に爪を立ててしがみつくのが、また愛おしい。 「はじ、めて……」 「はじめて?」 「こんなに気持ちいいの、はじめて……ぁン!」 「由紀乃」 「椿のフェロモン、また濃くなった」 そう言って、私の耳殻を甘噛む。 「私を煽るのが、本当に上手い」 「椿が、そうさせるんだよ……大好き」 「私の由紀乃」 由紀乃の腰が浮かないよう両手に力を入れ、突き上げの速度を上げる。背中をしならせる由紀乃を引き寄せ、より深く突き上げていく。 「イっちゃう!あっ!」 「私も、もうっ……くっ」 由紀乃の精液が私の腹を濡らす。自分のものがズクリと大きく脈打ちドクドクと由紀乃の胎に精液を流し込む。 「中、熱い……」 こんなにも長い射精は初めてだった。 「嬉しい。お腹、椿のでいっぱい……赤ちゃん、できるといいのに……」 そう言って腹を撫でる由紀乃は微笑みながら涙を浮かべた。 流れる涙を拭い、由紀乃を抱き締め、震える背中を撫でる。 「僕がっ出来損ないっだから……」 しゃくりあげながら泣く由紀乃は「ごめんね」と何度も繰り返す。 「由紀乃、私はあなたを愛せることが嬉しい……」 俯く顔を上向かせ、涙で濡れた頬に唇を這わす。 「由紀乃、愛しています。私は、あなたしか愛せない」 「でも、僕を番にすることはできないよね……」 「どうしてそう思うのですか?」 「椿、くんは」 椿くん? 「跡取りなんだよね?」 「椿……くん?私のことですよね?」 「え……あの……ダメかな……」 「椿では駄目ですか?」 由紀乃の顔が耳まで赤くなった。 「由紀乃?」 「なんだか、恥ずかしくて……」 「あんなに何度も呼んでくれたのに?」 「だから!恥ずかしいの!」 由紀乃は私の胸にグリグリと額を擦り付け背中をパシパシと叩いて叫んだ。 「くすぐったいですよ」 「したく、なっちゃうから……」 「え?」 「恥ずかしいよ……椿と呼ぶだけでしたくなっちゃうの、困る……」 「……私をこんなに困らるのはあなただけですよ」 「椿くん?顔、赤いよ?」 それはそうだろう。照れくさいというのを初めて経験したのだから。そうやって私の顔を覗き込むのも、反則だと思う…… 「私の番は、由紀乃しか考えられません」 「でも、跡取り……」 「私は、義父の望む跡取りにはなれません」 私は自分が養子であること、それまでの経緯などをかいつまんで話した。 「元々、義父とは考えが合わなかったのです。もちろん恩はありますが、自分の気持ちを曲げることはできません。義父にとって私は出来損ないのアルファのようです」 「ごめんね、でも、僕、嬉しい……椿くんの番になりたい……」 「必ず、あなたと番になります」 「嬉しい……」  私たちは、少しの時間お互いのことを話した。  私が両親のことを話すと、由紀乃は「椿くんは鬼なんかじゃない」と泣いてくれた。  そして、自分には両親がいないこと、無茶な抑制剤の飲み方をしてきたこと、生きる為に必死だったこと、自分の幸せは望めないと諦めたいたこと、それでもΩとしての幸せを願わずにはいられなかったことを話してくれた。 「このお屋敷には、家元を訪ねて沢山の方がいらっしゃるのだけど、ご夫婦やご家族の姿もあって、皆さんとても幸せそうで……」  由紀乃の目が閉じかけていた。 「眠そうですね……」 「部屋に帰りたい……ここは、嫌……」 「送りますよ」 「あり、がとう」  由紀乃に羽織を着せ手早く着物を着込み、由紀乃を抱き上げ廊下へ出ると、朝日が昇りかけていた。薄暗い廊下を歩き由紀乃を部屋へと送る。念のためスマートフォンの番号を書いて由紀乃に手渡し、自室に戻る。私はここで呼ばれるのを待たなければならない。  身なりを整え、刀を取り出し手入れを行いながらその時を待った。
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