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6.
だが、要は肌を重ねるごとに濃密さを増して行く、甘美な毒でもあった。
彼を使い捨ての道具だと見做して利用すればする程、身も心も絡めとられて、やがて突き放せなくなってしまった。
共に淫欲に耽っていても、本心が覗き見えない要を支配したい欲求に駆られ、後に行過ぎた行為を謝罪しに行く羽目になるのだが……。
それは『裏』西園寺家の血がなせる業なのだと、当の本人から説明を受けた後で謝られ、卒倒しかけた。
要を支配していたつもりが、支配されていたのは自分の方だったのだと時間をかけて理解すると、あの時は何とも言えない気持ちになったものだ。
真っ青な顔で新婚旅行から帰って来た昴に事のあらましを聞き、あらゆる誤解が解けた今は、会う度に愛が深まって行く要との関係に、満たされている。
ただ正直を言えば、入学式の日にあれだけ鮮烈な印象を残しておいて、自分の事を一切覚えていなかった要に対する苛立ちは、今も残っている。
狭量な男だと思われたくないから、今更その件を蒸し返すつもりは無いが。
「あぁ…、一樹さん……」
千歳緑の袷の着物を脱がせ、襦袢の合わせ目から手を差し入れると、焚き染められた菊花の香りが、肌の温もりにより一層濃く立ち上った。
情欲を煽られて汗ばみ始めた肌を口唇で愛撫しながら、充血して凝った乳首を爪先できつく捩じる。
「……っ!」
奥歯を噛んで、快感を堪える様子が普段より強いことに充実感を覚え、素早く腰紐を解く。
要の裸体を隠す襦袢を脱がせようとすると、思いの外、強い力でそれを押し留められた。
「かずき、さん……。これ以上は、だ、駄目…です」
可愛い恋人に焦らされているのだろうか。
と、余裕をもって微笑みかけたが、要は青ざめた額に薄く汗を浮かべ、座したままじりじりと後退っている。
「あの…。み、充が……駄目、って言って、その……」
「はぁ??」
―― 何故このタイミングで、疎ましい異父弟の名前が出て来るんだ。
若干怒りを覚えつつ、壁際まで追い詰めた要を押さえつけ、力任せに襦袢を剥ぎ取る。
「か、一樹さん、待っ……!」
襦袢の下から現れた物に一樹が目を見張ると、要は、あぁ……。と呻き、珊瑚色の口唇を噛んで朱に染まった顔を背けた。
室内の灯りに照らされた、冷たい輝き。
一樹自身も要に装着した過去があるからか、それが何なのかを瞬時に悟った。
要は、鍵付きの金属製の貞操帯を装着されていたのだ。
「要……」
隣り合う深山から、低く遠雷の音が麓まで這い伝う。
「お前……。充とも、寝ているのか?」
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