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7.
予てから疑っていたとは言え、つい口の端に掛けてしまった事を後悔した一樹だったが、真正面から核心を突かれた形となった要の方は、返す言葉も無く、血の気を失った面を俯かせた。
父親は違えど、実の弟と姦淫を犯していた事実を恋人に暴かれた要は、寒気と恐れからか、貞操帯を身に付けただけの身体を小刻みに震わせている。
「…やはり本当、なんだな」
要の反応で、疑心が確信へと変わった一樹の方も、受けた衝撃の大きさにその後の言葉を失い、凍り付いた視線を、産毛すらも見当たらないなめらかな下肢へと落とした。
金属製の貞操帯は下向きに曲線を描いており、装着者の勃起を阻む作りとなっている。
檻に近いそれに収められた要の陰茎は、包皮を剥かれて剥き出しにされた裂目に、シリコンのチューブが深々と差し込まれ、更には先端に栓をされて、己の意思では射精出来ない恐ろしい仕様となっていた。
金属製の頑丈なケージも、淡紅色の先端を開かせて串刺しにされた陰茎も、グロテスクでありながら何処か被虐的であり、裸体よりも卑猥に映った。
だが、一樹の胸奥は恋人に裏切られた怒りと嫉妬で燃え盛り、今にも焼け爛れ落ちそうになっていた。
―― 要達が秋葉邸に引っ越して来た当初から、妙に仲の良い兄弟だと、疑ってはいた。
それぞれに部屋が与えられているのに彼等は同じ空間で過ごす事が多く、入浴や着替えなど、要の身の回りの事は全て、充が行っていたからだ。
距離が近過ぎる兄弟を疑問に思いつつも、兄弟のいない一樹は、多分これが世間一般の普通の兄弟なのだろう…。
と思い直し、今まで見過ごして来たのだ。
「……俺では満足出来なくて、弟にも身体を開いているのか、お前は」
絞り出すような声音に、要は懸命に頭を振って否定した。
「俺と会えなかった間も、毎晩電話で寂しいと言いながら……充に抱かれていたのか。この、淫乱が」
「ち、違います…!」
焦る要の隙を突き、解いた腰紐で素早く、彼の手首から重ねた親指までを、身体の正面で一絡げに拘束する。立ち上がり、座所の隣にある襖を開け放った。
控えの間となる手狭な部屋を抜けた奥に、要の寝所がある。
拘束した紐を掴み、寝所の内部まで乱暴に引き摺って行くと、要は引き攣った悲鳴を上げた。
「痛いっ…。一樹さん待って、話を……」
「黙れッ!」
「―――!」
薄暗い寝所に静寂を裂く様な打擲音が鳴り響き、要の身体は、几帳に隠された錦の寝具に横倒しになった。
「うっ…。うぅ……」
頬と、庇う事も出来ずに打ち付けた身体の痛みよりも、一樹にぶたれたショックの方が大きい要は、飴色の髪の隙間から、ジャケットを脱ぎ捨ててシャツの釦とネクタイを煩そうに緩めた彼を、呆然と見上げた。
つい先程までの柔らかな雰囲気は消え失せ、今は怒りと憎しみに燃える鋭い瞳が、伽羅色の瞳を射抜いている。
口内にじわりと広がる鉄の味と恐怖を呑み込むと、一樹は要の足首を掴み、両の膝が寝具に届く程に押し付けた。
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