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「柏原くんはパソコン強いから、居てくれて本当に助かるわ」
パソコンが動かなくなったら電源を引き抜くという恐怖の操作しかできない七倉先生に、図書室のデータ管理を僕は任せてもらっている。
貸出期間が終了しても返却されていない場合は、借りている生徒の支給PCにメールが飛ぶ仕組みを作ったことで、相当な信頼をもらえたらしい。
それ以来、僕の欲しい環境が七倉先生経由でどんどん整備されていき、家にいたら「またパソコンばっかり触って!」と母に苦言を呈されるが、ここでならばパソコンを触っていても誰も僕を怒ることなどない。
場所が違うだけで、片方は僕を怒り、片方は僕に感謝する。なんとも不思議な話だ。
*
この日も僕は朝から図書室で自分の作りたいアプリのためにプログラミングをしていた。
ふいに、図書室のドアが静かにレールを転がる開く音が聞こえた。
いつもなら滅多に人が来ない時間なのに、誰だろうとドアのほうを見ると、長い黒髪の女子生徒が入って来る姿が見えた。
あれは隣のクラスの――、誰だっけか。
見たことある子だな、ええと、4組の委員長だってことは知ってるんだけどな。
彼女は足音をほとんど響かせず歩き始め、奥の棚の方へと消えていった。
しばらくすると彼女がこちらへと歩いてきた。手には本が一冊あるので、目的の本は見つけたんだろう。こちらに向かってくるのは僕に用があるわけではなくて、貸出用PCに用があるからだろう。
案の定、彼女は僕の左にある貸出用PCの前で立ち止まり、生徒証のIDをリーダーに読み込ませていた。
僕が使っている四面ディスプレイの左下に彼女の情報が表示される。別に盗み見するつもりなどはなくて、操作がうまくいかなかったときなどにヘルプできるように連動して表示されるだけだ。
『2年4組31番 榊エリカ』
ああ、そんな名前だったかもな、この日はそう思っただけだった。
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