11人が本棚に入れています
本棚に追加
*
榊エリカは毎週月曜の朝に本を借りに来る(月曜が祝日なら火曜日に)。
僕以外に誰もいない図書室に静かに入ってきては本を借りていく。きっちり同じルーティンだ。
あくまで応対するのは貸出用PCなので、毎週会っているとはいえ、榊と僕が会話することはない。
彼女が手にしている本は、いつも綾村陽香という作家の小説だった。直木賞も受賞したことのある有名な作家だ。この図書室にも文庫本が多く置かれている。
僕も好きな作家だ。
榊は他の作家の小説を借りていくことはなく、綾村陽香の小説だけを毎週1冊借りていく。
今週は何のタイトルを借りていくんだろう。
静けさの中で起きるルーティン、違うのは彼女が借りていく小説のタイトルだけ。次は何を借りるのかを予想してみる、それが隠れた僕のゲームになった。
基本的に榊が借りていく順は発売順なのだが、多くの作品を出版している作家なので、「え、今週はそっちかよ」と思うときもある。
だが、そんな勝手な予想が外れることなんて大したことではなかった。
十一月、僕にとって、もっと予想を大きく超えた出来事が起きたのから。
あの静けさの中のルーティンは幻だったのかと思うような出来事が起きたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!