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*  榊エリカは毎週月曜の朝に本を借りに来る(月曜が祝日なら火曜日に)。  僕以外に誰もいない図書室に静かに入ってきては本を借りていく。きっちり同じルーティンだ。  あくまで応対するのは貸出用PCなので、毎週会っているとはいえ、榊と僕が会話することはない。  彼女が手にしている本は、いつも綾村陽香という作家の小説だった。直木賞も受賞したことのある有名な作家だ。この図書室にも文庫本が多く置かれている。  僕も好きな作家だ。  榊は他の作家の小説を借りていくことはなく、綾村陽香の小説だけを毎週1冊借りていく。  今週は何のタイトルを借りていくんだろう。  静けさの中で起きるルーティン、違うのは彼女が借りていく小説のタイトルだけ。次は何を借りるのかを予想してみる、それが隠れた僕のゲームになった。  基本的に榊が借りていく順は発売順なのだが、多くの作品を出版している作家なので、「え、今週はそっちかよ」と思うときもある。  だが、そんな勝手な予想が外れることなんて大したことではなかった。  十一月、僕にとって、もっと予想を大きく超えた出来事が起きたのから。  あの静けさの中のルーティンは幻だったのかと思うような出来事が起きたのだ。
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