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札幌にて 2
そんなBurnの話を聞きながら、私は自分の身の上にも同様の危険を予感していた。
否、予感はすでに実感に変わりつつあった。
仕事で疲れ過ぎて帰った夜は食欲がなく、浩哉の作った料理を食べられないと断ると、彼は激怒した。
私の胸ぐらを掴み、ブラウスを引き裂きながら彼は大声で罵った。
「他の男とメシを食って来たんだろ? メシを食ってから男を食って来たんだろ! 正直に言えっ! 隅々まで点検するからおとなしく股を広げろ… このメスブタッ」
或いは仕事中に患者さんの車いすとぶつかり、太ももが内出血した時などは、浩哉は、まるで化け物でも見るような目で私を睨みつけ、いきなり、そこに歯をたてて噛みついてきた。
「痛い、痛い、やめて~」
と叫ぶ私に、彼はこう言い捨てた。
「夫の目の前に他の男のキスマークをさらすとは、いい度胸だな。汚らわしい。薄汚い男が吸い付いた腐った肉は、俺が嚙み切って消毒してやろうってんだ。いつからオマエは、そんなメスブタに成り下がった? 俺の愛し方が足りないってのか? 今夜は朝まで寝かせないで愛してやろうじゃねぇか」
浩哉の愛は、ただ自己中心的に獰猛な性欲を発散するだけだ。
それが愛なんかじゃないことを、浩哉自身も知っている。
けれど浩哉は、それ以外に自己の優位性を示す手立てを持っていない。
そんな時の浩哉は絶倫で、吸われ過ぎた乳首は赤く腫れあがり、全身はキスマークと歯型でブス色に内出血し、下半身は引き裂かれた柘榴の果実のように血生臭く哀しく傷ついていく。
浩哉は、私のバッグや持ち物のすべてを毎日細かく点検し、例えばドラッグストアで胃薬を買ったレシートを発見した際には、なぜ胃薬を買うのか、俺に隠れて胃薬を飲む理由は何だ、と何時間も問い詰める。
そのうち私の職場まで、朝、同じ電車に乗って送って行くとまで言い出す。
「電車で痴漢にあったら大変だから」
などと言うが、その行為自体、病的ではないか。
浩哉の愛は、もはや私にとって恐怖の束縛でしかなくなっていった。
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