札幌にて 

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 浩哉は右足がなかなか完治せず、仕事に就こうともせず私の収入で生活していた。  足がスムーズに動くようになったら気持ちが変わるのではないかと期待していたが、彼はどんな仕事に就いても半月も通うと何かしらの理由をつけて辞めてしまうのだった。  そのくせ性欲ばかり強く、隙あらば私を抱いた。  夜勤明けで疲れて帰っても、熟睡している途中でも、せっかくの休日の朝も、彼は私の体と繋がっていたいのだった。  初めの数年は、それも愛情なのだろうと錯覚していた。 「俺が毎日抱いてやらないと、若い患者に手を付けたら困るからな」 「俺なしでは生きられない女にしてやる」  そんな言葉にさえ、私は愛を見出そうとしていた。  彼は几帳面で潔癖症だったので、家の中はいつも徹底的に掃除していた。やがて、その潔癖症のせいで料理にも凝り始めた。  有機野菜とか、良質のたんぱく質とか、オメガ3、ALA、水素水、炭酸水など体にいいと思うものを調べ上げて料理を作ってくれるのは、ありがたかったが、友だちが旅行のお土産に買って来てくれたお菓子は箱のまま捨てられた。 「そんな糖分のかたまりを食ったら体が糖化する」  栄養学的には真実かもしれないが、私は次第にストレスが溜まっていった。  以降、浩哉の気持ちを逆撫でしそうな食べものは家に持ち帰らず、職場で食べるか仲間で分け合うようにした。  肉体的には濃厚接触を好む浩哉だが、精神的な会話は好まなかった。  仕事に就かず家で自由気ままに過ごしていることに対しを感じていたからかもしれないが、少しでも人生論的な話になると彼は強引に口づけしたり私をベッドに押し倒したりして話を続けさせないようにしてしまうのだった。  
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