札幌にて 2

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 そんなBurnと私は 「二人でどこか遠くに逃げたいね」 などと初めは夢物語のように語り合い、慰め合っていたが…  いつか訪れるかもしれない逃亡の日に備え、Burnと私は電話番号やSNSの連絡先を交換し、もはやゲームから抜け出して、お互いの危機を共有し心配し合う仲になっていった。    浩哉と結婚して10年目、Burnと出会って7年目の冬。 「俺たち新婚旅行に行ってないから、10年目のお祝いに海外旅行に連れて行ってくれよ」 と浩哉は言った。  自分で働きもせず、何がお祝いだ!  私は、彼の身勝手過ぎる言動に返す言葉もなく、当惑したままオロオロしていると、浩哉は私の貯金通帳をテーブルの上にパサリと投げ出し、意地悪そうな口調で聞いてきた。 「こんなに貯金あるじゃないか。何のために貯めてるんだ?」 「家を建てるためよ。いつまでも、こんな小さなアパート暮らしじゃ落ち着かないでしょ?」  咄嗟に思いついた私の答えに浩哉は満足したらしかった。  その瞬間から、彼は家の建設に向けて行動を開始した。  彼の両親は東北の港町で小さな理髪店を営んでいたが、数年前、店をたたみ、彼の兄が住む大阪にマンションを購入して移り住んでいた。  空き家になっていた両親の店を壊して、そこに家を建てようと彼は言った。  彼は両親と相談して、どんどん計画を進め、何度か現地にまで足を運び、古い建物を壊して更地にした。  雪がなくなる4月には新築工事に着手するという運びになっているが、頭金の1,000万円は私の貯金を宛てにしており、その後の住宅ローンも当然のことながら私の名義で組もうとしている。 「看護師免許を持っていれば、どこに住んでも食いっぱぐれる心配はないだろう」  ためらいもせず、浩哉はそう言った。  それまで、実務的なことを何一つしてこなかった浩哉が、家の建築に関し、そこまで積極的に行動することは意外であり、同時に不愉快でもあった。  私の気持ちが変わらないうちに、私が爪に火を点すようにして貯めたお金を、動かしがたい自分の財産にすり替えようとしているのだ。  初めは悔しいと思って泣き寝入りしていたが、やがて私は、そんな夫が憎らしくさえなってきた。
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